第6章 好きの定義とは
ついさっきまでは何も考えなくてもスラスラ喋れていた筈なのに、何を話せばいいのか全く分からなくなってしまった。
「?」
「なに……?」
「いや。やけに大人しくなったな、と思って」
「うん……」
「僕のこと意識してくれてるってことか?」
「そりゃ、するよ……」
「それならいいんだ。あのさ、このこと水野先生には話した方がいいのか?」
「……話さなくても絶対バレるんだよね、正直に話すべきかな。あーなんて言おう……」
ほんと……なんて話そうか。話した所で色々からかわれるのは目に見えてる。
「ありのままでいいんじゃないのか?……先生はに彼氏を作ってほしかったんだろ?だったら反対されることは無いよな」
「無い無い。むしろ零くんとくっついてほしそうだったからね、ニヤニヤ笑いながら喜ぶと思う」
「それはラッキーだな」
「ラッキー?」
「ああ。普通のお父さんは、娘に彼氏ができたら怒って落ち込むんだろ?」
「そうらしいね……」
私の父は、どう思うだろうか。母だったら、喜んでくれそうだけどな。
「の本当のお父さんは?どんな人なんだ?」
「え……っとね、水野先生とは高校の同級生らしくて。普通のお父さんだと思うよ。でももういないの」
「……亡くなったのか」
「うん。私が高校生の時だね、お母さんも一緒に。事故だった」
「そうか……ごめんな」
「ううん。いつかは話すことになっただろうし、いいの」
「も、辛かったんだな……」
そりゃあ、辛かったけど、それはもう乗り越えた。水野先生のおかげだ。
それよりも今零くんに辛そうな顔をさせてしまってる事が申し訳ない。
「私には水野先生がいたし、今はもう大丈夫だよ。それにね、そういう事もあったから、心理士になろうと思ったの。本当は水野先生みたいなお医者さんが良かったけど、私そんなに頭良くなかったから……」
「へえ……は立派だな」
「そんなことない」
「でも、そういう過去があったおかげで、僕らは今こうなってるって事だ」
「……ほんと、そうかもね。そう思うとすごいよね」
両親が今も健在だったら、私は心理士になってなかっただろうし。
零くんだって、辛い過去がなければ私や先生を頼ってくる事もなかったんだろうか。