第6章 好きの定義とは
「その男を忘れる方法なら簡単だ」
「……どうすればいいの?」
「新しい恋愛をすればいい。新しい男でもできない限り、ずっとは過去のその男に縛られ続けるんじゃないのか?」
「……そうかもね、もう会うことも無い人だし、忘れなきゃってずっと思ってるんだけどね。水野先生にも早く彼氏作れって、よく言われてて……」
「……からその男の記憶を消すのは、僕でありたいと思うよ」
「それは……あの、つまり、」
「さっきも言っただろ?僕はが好きだって……もっとハッキリ言おうか?」
どうしよう……ほぼ無意識の中、ゆっくり、頷いた。
「僕の恋人になってくれませんか」
酷く真面目なトーンで言われて……こっちの背筋が伸びる。
「……ほんとにいいの?さっき聞いたでしょ?私、こんな中途半端な感じなのに……」
「今の気持ちがこっちを向いてないのは仕方ない、構わない。そのうち全部僕に向けさせてみせる」
零くん、サラッとすごいこと言ってないか。
どうしよう……これで、本当にいいんだろうか。
「……えっと……じゃあ、よろしくお願いします、私で良ければ……」
何故だか分からないけど頭を下げた。そして下げた頭を上げられずに、じっとテーブルの木目を見つめてしまう。
こんな真剣にしっかり告白されたのって、初めて、かな。すごく嬉しい。加えてとてつもなく恥ずかしい。
「がいいんだって。頭上げて。僕が何か謝らせてるみたいだ」
「えっあ、ごめん!なんかもうどうしたらいいか分かんなくなっちゃって」
「可愛いよな、ほんと……まあ飲もうか」
今までも零くんのニコニコ笑ってる顔って何度か見てきたと思うんだけど。なんかもう今は全く別物に見えてきた。
「顔赤い……?もう酔った?もしかしてワイン苦手だったか?」
「違う!零くんのせいだって……」
「へえ……自分の所為だと思うと尚更可愛く見えてくるな」
いつからか、物凄い速さで心臓が動いている。所謂ドキドキしてるってやつだろう。それってつまり、私、零くんに“恋”できてるってことなのか……?
とりあえずワインを飲もう、とグラスの脚を掴もうとした自分の指先が小さく震えてることに驚いた。
どうやら私、めちゃくちゃ緊張状態にあるみたいだ……