第6章 好きの定義とは
「……警察官の鏡だね、かっこいーい」
「鏡、か……なあ、職場の中での立場って婚歴に左右されると思うか?」
「結婚のこと?」
「そうだ」
「最近はそんな事ないんじゃないの?あ、でも公務員ってその辺の考え方古そうだね」
「やっぱりそうか?……あの潜入捜査が終わってからだな、自分の年齢のせいもあるんだろうけど結婚しろ見合いしろって上が五月蝿くなってきた」
「やっぱお偉いさんのお嬢さんとか紹介されたりする?」
「元警視総監の孫とか長官の姪とかな……断ったけど」
「零くんモテそうだもんなぁ……結婚はまだしたくないの?」
「したいと思ったことは無い。と言うより、僕にはよく言う普通の結婚生活が送れるとは思えない」
「……何をもって“普通”って言うかにもよるけどね」
「まあ、そうだよな……はどうなんだ?結婚願望はあるのか?」
「いつかはしたいと思ってるよ!でも早くしたい!とかではないかな……」
「警察官の妻になりたいとは思うか?」
「……警察官はダメなの?」
「若くして死ぬかもしれない」
「……私、見れるじゃん。危なそうな仕事の時は先に現場見に行こうかなー」
「……なるほどな」
いつの間にか場の空気は良くなったけど、居酒屋で喋ってるのと大差無い会話の内容になってしまった。まあ、それでいいんだ。零くんの気が晴れればいい。
気付けば窓の外の雨も上がってて……遠くに虹の端っこが見える。
「まあでも、本当にしんどい時は、零くんならいつでも電話してくれればいいよ。話すだけでも少しは気が紛れるでしょ?」
「がボタンになってくれる訳だ」
「うん」
「心強いな。押さないのが一番のボタンだけど」
「その通り!物分りが良くて大変よろしいです」
二杯目の紅茶を入れに私は席を立った。
すると零くんがパーテーションの向こうの水野先生に話しかけ出した。
「水野先生ー!今日もさんと食事に行っても構いませんかー?」
「……どうして俺に聞く?」
「先生はさんのお父さんみたいな方だと聞いたので!」
「好きにしてくださいー!ももう大人ですから!」
「ありがとうございます!」
……今日も零くんと食事に行くのか。
それを考え出すと、自分の気持ちが明らかに高揚してきた。