第6章 好きの定義とは
零くんはその転校生といつしか仲良くなり、いつも二人でつるんでたそうだ。名前は“ヒロ”というらしい。
彼らは大人になってもずっと一緒で。二人して警察の職に就き、何の偶然か、二人共あの例のテロ組織へ潜入捜査官として潜る事になったみたい。
職務の都合上、表立って親しくはできなかったけど、それでも互いに気持ちは通じ合ってたと思う、と零くんは少し切なそうに目を細めた。
きっとめちゃくちゃ仲良しなんだな。ちょっとどんな人だか見てみたい気もする。
「でもある時、ヒロは公安からのスパイだと、組織にバレたんだ」
「え……っ」
「ヒロは、自殺した。追い込まれて殺されたようなもんだ。その追い込んだ奴っていうのが、この前の……の家の前にいたあの男だ」
「あの?……待って?あの男の人は例の組織の人ってこと!?捕まってないの!?」
「アイツは、僕らと同じ立場の人間だったんだ。潜入捜査官」
「なるほど……」
「だから余計に許せない。アイツなら、ヒロを救う事だって出来た筈なのに……」
零くんが話したかった事っていうのはコレだったのか。大事な人の死……消すに消せない過去の辛い記憶……
いつの間にか雨足は強まっていて、窓の外は暗く。雨が壁や地面を叩く音がザーザー煩い。
零くんからも先程の穏やかさは消えていて、何なら少し怖く見えるくらい、顔付きが変わってしまった。
そういえば、自宅の前にその男性が居て、その人と話す零くんの声もこんな感じだったか……
「ヒロは、僕が唯一心を許せる友達だったんだ。大人になってからヒロ以外にも親しい友達はできたけど……どいつもこいつも命知らずな性格でね、もう皆この世にはいない。僕が子供の頃大好きだった人だってそうだ……僕の大事な人は、皆いなくなる」
「それは……辛いね……」
「辛い。おまけにもう一つ辛い話を付け加えると……僕の記憶の限りでは、僕は自分の親の顔を見たことが無い」
「……そう」
「だから、が羨ましいよ。二人もお父さんがいて」
言葉がすぐに出てこない。
胸が痛い。こんなに他人の話を聞いて、自分まで辛くて辛くて仕方なくなったのは初めてかもしれない。
我慢して堪えてるけど、気を弛めたら泣いてしまいそうだ。
「ごめん。重すぎたな、こんな話……」
「いい。話してくれて、ありがとう……」