第4章 気の合う人
パチパチ手を叩いて零くんに近付き、彼の勝利を称える。
「零くんすごすぎ……そんなに上手いんならもう少し手加減してくれたっていいのにー」
「つい熱くなっちゃって……でも途中で交換してやっただろ?……でもまあ、そうだよな、女の子相手に」
「そうだよ」
そうだ。私は女の子だ。そっか、彼は私のこと異性として見てくれてるのか、と一人頭の中で呟きかけたけど、それは掻き消される。
「おにーさん、すごいッスね!いつもはどこで投げてるンスか!」とか「わたしにも教えてくださーい!」「次一緒にやりませんか!」とか、若い男女がゲームを終えた零くんに群がってきたのだ。
私は、一人で飲んでるから、どうぞ上手な人同士で楽しんで!ってつもりの視線を彼に送り、カウンターの方へ向かう。
「困ったな……今日はあの子と二人で飲みたい気分なので、すみません。また別の機会があればお手合わせよろしくお願いします」
なのに後ろからそんな言葉が聞こえて、零くんが隣にやって来た。
とりあえず、二人でカウンターに並び、彼が若い頃よく飲んだという銘柄のお酒を二つ頼んだ。
「零くん、ダーツもういいの?」
「がしないんならする意味が無いだろ」
「別にいいのに」
「まあ、またここも騒がしくなってきたし……これ飲んだらぼちぼち帰ろうか。明日も仕事だろ?」
「うん、零くんも?」
「ああ」
仕事が嫌いなわけでもないのに、仕事の話をし出すと一気に気分が冷めてくるから不思議だ。
明日はたしか、あの作業をして……おそらく、今夜の零くんとの話を水野先生に根掘り葉掘り喋らされるんだろう。
「あー、もう……」
「……何か嫌な事思い出させたか?」
「あっごめん!違うの!水野先生がね、いつも色々うるさいから。明日もきっとうるさいんだろうなって」
「へえ?仲良さそうに見えるけどな」
「仲は良いよ?もうお世話になって二十年近く経つし。二人目のお父さんみたいな感じ。でもあの人、私の考えてる事なーんでも分かっちゃうから……お節介が酷くて」
「心配してくれてるんだろ」
「そうなんだろうけど……」
「そうやって思ってくれてる人が居るのは、いい事じゃないか」
「まあね……そうだね」
ガヤガヤ騒がしい店内、私達だけが妙に静かにお酒を飲み干し、店を出た。(お会計は割り勘にした!)