第4章 気の合う人
でも二人でゲームをやってるのだ。零くんの直後に投げるのは当然私。こんな大勢の人に見られながらヘタクソな自分が投げるのって、辱めでしかない。
ゲームのルールは、1ラウンドにつき矢を3回投げ、それを 8ラウンドまで繰り返し、合計得点が多い方の勝ち、っていうシンプルな内容。
現在4ラウンドを終え、後攻の私は121点。先攻の零くんはなんと、470点。ダーツを知らない人にもこの差が凄いことは分かるだろうか。もう勝てないのは歴然。
「零くん、もう投げたくない……私下手くそだし……」
「だったら……僕のと逆にするか?そしたらは圧倒的リードの状況からスタートだ」
「あ!それならやる!」
意地も何も無い。意気揚々と零くんと順番を換えてもらい。
自分の番になり、ひょい、と矢を放つと……この日初めて、真ん中の所、所謂“ブル”って所に私の矢が命中したのだ。
「!!!やった!」
「なんだ、できるじゃないか」
でも喜んだのも束の間、そんな事は続かず、あんなにあった点差も、あっという間に縮まっていき……
いよいよ最終ラウンド。ここで現在後攻の零くんに大差をつけなければ、負けは確実。やっぱり無理だったか……
とぼとぼと投げる位置まで進み、構える。多分、私、面白くなさそうな顔してる。
「は、もっと力抜いた方がいい。力むと軌道がブレる。それに……」
「う……へっ!?」
零くんが背後から私の腕の角度を直しに来た。床と水平に、矢を放すのはこの辺で、とか色々御指導頂いているんだけど、男性に体を触られるのが久しぶりで、何を言われているのかイマイチ入って来ない。
彼が後ろに戻り、もうどうにでもなれ!と、投げた。
すると、なんとド真ん中ではないものの、かなり高得点の場所に矢が刺さり。続けてもう二投も、中々の得点になり……零くんとの点差は……割とつけられた。勝っても負けてもおかしくない数。
そして零くんが投げる。一投、二投……
次、最後の矢がド真ん中に入ったら、零くんの勝ち(厳密に言うと違うが)。
彼は一瞬、口元を締めたまま口角を上げ微笑み、こちらを見てきた。きっと、躊躇わずド真ん中に入れるんだろう。そんな気がして堪らない。
……ほら。やっぱり。“ズキューン”とブルに入った音が機械から鳴り響いた。