第4章 気の合う人
今日こそは私がお会計を!と思ってたのに、やられた。
私がトイレに言ってる隙に零くんに支払いは済まされており、さて店を出ようとなった時にはもう支払うものは何もなかったのだ。
二軒目の店をまた歩きながら探す。すっかり辺りは暗くなってて、カラオケやチェーンの居酒屋、ネットカフェの看板の光がやたら眩しい。
「この辺、静かなお店は少ないと思う……バーでも騒がしめの店が多いんじゃないかな、平気?」
「ああ。実は……知ってる。僕も東都大出身だから」
「えーっ!?てことは……やっぱり法学部?」
「なんで分かった」
「いや、警察のエリートって東大法出身が多いって聞いた事あるから……」
(水野先生お抱え患者の警察官僚が前にそう自慢してたのだ)
「たしかにそうだけど……患者情報か?」
「内緒ー!守秘義務ってやつね!」
「そう言ってる時点で患者ってことだろ?まあ聞かないけどさ」
「はい。それでお願いします。水野先生には今の内緒ね!」
「……はいはい……ん、なあ、、ダーツはできるか?」
呆れたような顔をしてた零くんの顔付きがフッと変わった。目線の先にはダーツの的を模した看板。
「ダーツ?学生の時にしたことあるくらいで……上手くないけど」
「僕も長いことしてないから似たようなもんだろ。なんかこの辺にいると若い頃のこと思い出すっていうか……とにかく今無性に投げたくなった。久しぶりにどうだ?」
「どうだ?」って聞いてくる割に、既に彼の片手は矢を放つ素振りをしてて、行く気満々に見える。なんか子供みたい(いい意味で)。
そんなに行きたいんなら、付き合うけども。
そしてダーツバー入店から数十分後。
「えっ……嘘でしょ……零くん、すごーい……」
入店時にはまだ客も少なかった筈だけど、いつの間にか増えていたギャラリーが、零くん(と私)の周りに群がり、歓声を上げている。
電子ダーツの画面には滅多に見ることの無い派手な映像が流れている。高得点を叩き出した時にしか見られない演出だと思う。
最初こそ、別に普通な感じで零くんも私も投げてたと思ったのに。
二ゲーム目になってからだ。彼の長い腕から放たれた矢は、彼の宣言通りの場所に、勢いよく突き刺さり始めた。
「調子が戻ってきたみたいだ」と笑う零くんは酷く楽しそう。