第4章 気の合う人
「……今こうやって一緒に飲みに出てる私が言うのもおかしな話ですけど、基本的に医師やカウンセラーは、患者さんと“プライベートな関係を持ってはいけない”っていう大前提があります」
「……ではこの食事も、セラピーの延長ですか」
「私はそうは思ってませんけど?」
「じゃあ僕は特別ってことですね」
「ええ。だって元々違う形で知り合ってますし。あ、でもだからって診療の手は抜いてませんよ!」
「良かった。それならさんも、もっと気楽にしてください。ほら、あの紅茶飲んでた時みたいに。今日はお互い仕事のことは忘れて、楽しく飲みましょう?」
「あー。それなら“さん”って言うの変えてほしいな。仕事してるみたいだから」
「僕もだ。“降谷さん”は辞めてくれ」
「……友達からは何て呼ばれてるの?」
彼は友人からは、“零”=数字の“0”で“ゼロ”と呼ばれてるそうで。でもその呼び方もしないでほしいとのことなので、とりあえず“零(れい)くん”と呼ぶことに落ち着いた。
私は“”でいいと伝えた。下の名前に“さん”とか“ちゃん”とか付けられると、こそばゆいのだ。
そうは決めたものの、すぐに切り替えられる訳もなく、何度か「降谷さん」「さん」と呼んでは、笑うことになったけど。
お酒のせいか親しく呼び合うようになったせいか、だいぶ砕けた雰囲気になった降谷さん、じゃなかった、零くんが、大きく口を開けて楽しそうに笑う姿は本当、どこにでもいる青年のようだ。作り笑いには見えないし、本当に楽しんでくれてるんだろう。よかった。
気付けば小さな居酒屋の店内には他にも数組の客がいて、騒がしくなってきたのに合わせるように私達の会話のテンポも上がり、楽しくお酒と料理を頂いた。
水野先生以外の男性とこんなに喋ったのは久しぶりだ。
「はお酒強いんだろ?」
「んー……普通じゃない?」
「一人で焼き鳥屋でビール飲んでたんだ、弱い筈がない」
「ああ……あの時はお世話になりました」
「……それはもういいって。店も混んできたし、そろそろ出てもう一軒行こうか」
「行く!」
「そんなに行きたかったのか?嬉しそうな顔して」
「嬉しくて悪いの?」
「いや、全然いい。僕ものおかげで今日はすごく気分がいいんだ」