第4章 気の合う人
「カウンセリングってこんな感じなんですか?もっと質問攻めに合うのかと思ってました」
「方法は色々あるんですけどね、私と先生には絶対こう!って決めたやり方は無いです。まずは、降谷さんがどんな人なのか知りたいし、そこからです」
「なるほど」
「日本では不安を抱えきれんくなった時にこういう所を頼るイメージが強いかもしれませんが、欧米だと普段から定期的にカウンセラーと他愛ない会話をして、メンタルを保つ人も結構多いんですよ」
「へえ……」
「ほら、あの、人に話すとスッキリするとか言うでしょ?」
「ああ、たしかに……秘密の共有をするだけで物凄く相手との間に信頼関係が生まれた気がしたり……たかが会話ですけど、それがもたらす効果は計り知れません」
「うん」
「その通りです」
「この前話しましたよね……?例の組織の捜査をしてた時は……四六時中そんな事ばかり考えてましたよ……どうしたら悪人相手に優位に立ち回れるかとか、相手の懐に上手く入る方法から、機密情報を引き出す口述とか……」
「そりゃあ、疲れますわな」
「うん……仕事とは言えね……きっと物凄く大変でしたよね……」
「それが……実はその当時は必死だったからかそこまで大変だとは感じて無かったんですよね……」
それから降谷さんが話し出した“当時の話”というのは、まるでドラマか映画の筋書きみたいな内容で……唖然としてしまいそうなのを悟られないように努めるのが大変だった。
降谷さんは、そのとき二重スパイだったそうだ。例の組織に所属しながら、そこから更に別の所へ潜入するっていう……三つの名前を使い分けて生活していたそう。しかも一時的にじゃなく、結構長い期間。
そうしている内に本来の自分らしさが薄れていき、自分が自分じゃないように感じることがしばしばあったと。
未だに朝目覚めた瞬間、自分は今何者でいるべきか考える癖が抜けず、寝起きはいつも気分が悪いんだとか。
でも、降谷さんは元々メンタルの強い人なんだと思う。そうでなければそもそもそんな仕事も務まらなかっただろうから。