第4章 気の合う人
昼下がり、水野先生と二人きり(大体いつも二人きり)の研究室の扉がノックされる。扉が少し開き「こんにちは……」と男性の声がする。
来客が誰なのか検討はついてるけど……金色の頭部がチラりと見えて、それは確信に変わる。今日は彼の初めてのカウンセリングの日なのだ。
「降谷さん!こんにちは!どうぞ!」
「失礼します……こちらが、水野先生の研究室、なんですか?」
「そうですよ?……ああ、なんか家みたいだからですか?」
「ええ、ちょっと想像してたのと違って……でも居心地良さそうですね」
ウチの研究室は広くはない。だけど研究室と言うよりまるで誰かの家のリビングのような部屋なのだ。
スチールの机や棚に書類がビッシリ……とか、そういうよくある研究室とは全く雰囲気が違う。
入ってすぐの所には大きな木製のテーブルの上に二台のPC、窓に掛かっているカーテンも暖かい色のものだし、パーテーションで仕切られた部屋の奥には明るめの茶色い皮のソファが二台、小さめのテーブルを挟んで向かい合わせに置いてある。観葉植物もあれば、床だってフローリング風だ。
降谷さんをソファに座らせて、飲み物を用意する為ケトルでお湯を沸かす。
「コーヒーと紅茶どっちがいいですか?」
「……どちらがおすすめですか?」
「……それって心に良い方って事?どっちもリラックス効果はあるらしいけど……好きな香りのを選ぶのが一番かな。よかったら……」
コーヒーは一種類しかないけど、紅茶の茶葉はたまたま数種類あり。それらを降谷さんの前に持っていき、それぞれ香りを嗅いでもらう。
「気に入ったのがあれば……」
「へえ……ふーん……はい。コレがいいです」
「はーい。少し待っててくださいね」
今の紅茶選びで彼を試した訳ではないんだけど、こういうので性格が少し分かったりもする。
降谷さんは、ほとんど迷うことなくその中の一つを手に取った。
そうだろうな、とは思ってた。彼は決断力がある、つまりは、あまり悩まないタイプだと思われるのだ。
そんな降谷さんが一体何に悩まされてるのか。
紅茶を入れて、テーブルに運び、先生と一緒に降谷さんの向かいのソファに腰掛ける。
「えー降谷さん、まあいきなり悩み事を話せとは言いません。とりあえず雑談しましょうか」
三人で世間話を始めた。
今日の天気、昨日のニュース……
