第1章 不思議な彼女と大きな拾いもの
今夜の寝床が無いと言ったその人は、その割には小綺麗な容姿だった。
きちんとした服を着てて、清潔感もあった。話し方も丁寧、温厚そうな感じで、嫌な印象は全く無かったし。
残念ながら今となっては顔をハッキリ思い出せないんだけど、背の高い、所謂イケメンだったことは間違いない。
言うなれば、彼を家に上げて、万が一に何か間違いが起こってもいいや、と思ってしまえる程、素敵に見える人だったのだ。
結果、その“間違い”は起こった。
私と彼はその晩肌を合わせた。
惚れ惚れするくらい立派な身体に力強く抱かれて、何度も絶頂を見て……
自分でも信じられないくらいあの時は乱れて、本能のままに彼を求めて、ドロドロになって……
でも言っておくが、私は誰彼構わず他人を家に上げるタイプではない。男性と簡単に関係を持ったのだって、後にも先にも、あの人だけだ。
彼とは二日間、一緒に過ごしたけど……実の所私は、彼のフルネームも何をしてる人なのかもよく知らないまま、関係を持ち、離れた。
もっと一緒に居たかった、っていうのが離れた時の本音だったか。
今は良い思い出というか……きっと一生忘れられないであろう出来事として、自分の心の中にしまってある。
悲しいかな、それを上書きしてくれるような胸が高鳴る出来事は、あれから全くない。
そういう訳で、私は夜に帰宅する度、毎度こうして花壇と、空を見上げてはあの彼を思い出すのだ。
彼は元気にしてるんだろうか。
家に入り、寝る支度を済ませ。
ベッドの中で明日からの予定に考えを巡らせる。
明日はいつも通り起きて出勤、小さい会議に出て、昼からは警察の人と外に出て例の仕事をして、終了。
明日から三日間は、大体似たような予定だ。
きっと、物凄く疲れる三日間になる。
警察の人との仕事っていうのは、今回の場合は明後日から東京で開催される主要国首脳サミットの会場と、出席する要人達が滞在・宿泊する施設周辺の下見だ。
私の普段の職場は東都大の研究室。でも私は教授でもなければ博士号も持ってない、おまけに東都大の卒業生でもない、ただのスタッフ。
二流大学の心理学部を卒業して、カウンセラーの資格なら持ってるけど、それはこの仕事とは全く関係無い。
そんな私が何故警察と仕事をするのかは……話すと結構長くなるからウチの先生にでも聞いてほしい。