第14章 二人の選んだ道
そうして迎えた帰国の日。
当然のように機内では秀一さんと席は隣。でも彼が日本へ行く場合のチケットは“経費で落とせる”らしく、ビジネスクラスでの空旅となったので隣は隣でもそこまで近くはない。色んな意味で有難い。
犯罪心理学の書籍を取り出し、読み耽ること数分。その隣から声を掛けられた。
……返事をしない訳にもいかない。
「おい…………」
「……はい?」
「休暇中も勉強か?」
「勉強っていうか……まあ、そうですね」
「せっかくの連休だぞ?休む時は休め。隣で仕事されていると俺の気が休まらん」
「……私の事なんて気にしないで、どうぞ休んでください」
「気になるんだ」
「……もう」
開いていたページに栞を挟み、パタン、と本を閉じた。
秀一さんはウイスキーの入ったグラスをクルクル回しながら、こちらを愉しそうに見ている。
「よし、酒の相手になってくれ」
「それ“アルハラ”って言うらしいですよ」
「それはが嫌だと思う場合だろう?」
「……分かりました」
このまま言い合いしても無駄になるだけだろう。
CAを呼び、ビールを頼む。あまり気は進まないけど、少しアルコールを摂った方が着陸までグッスリ寝れそうではある。
手を伸ばしてグラスをカチン、と合わせ、ぼちぼちと飲み始める。
「見てみろ……綺麗だぞ」
「……ん?……あ……」
窓の外を指さされ、身を乗り出して見てみれば……月がポツンと浮かんでいた。
今住んでるマンションの周りには高さのある建物も多く、夜帰宅してきても月が見えないことも多くて。従っていつの間にか夜空を見上げる習慣は、殆ど無くなってきていた。
久しぶりにマジマジと月を眺める。
秀一さん、もとい昴さんとの思い出が蘇ってきそうなのを必死で抑制する。
「月って飛行機からも見えるんですね……」
「ああ……がアメリカに来て、もう一年だな」
「ですね、来月でちょうど一年……あっという間……」
「来て良かったと思うか?」
「はい……良い経験が沢山できました。あの……誘ってくれてありがとうございました」
「こちらのセリフだ。には皆感謝している」
「……そう言ってもらえるのが、今は本当に嬉しいです。こんなに人の役に立てたのって生まれて初めてじゃないかな……」