第2章 恋はまだ始まらない
「ちょうどお腹空いてたんですよね」と降谷さんは隣に座ってくる。
でも彼はサミット期間中はお酒は飲めないそうで(彼が警備の責任者だからね)ウーロン茶を、私は二杯目のビールを頼んで、グラスを合わせた。
今更お互いのプロフィールのようなものを口頭で交換する。
しばらくすると、店内のテレビでニュースが始まり、今日のサミットの様子が映し出された。私達が下見した場所が次々画面に出てくる。
「ほんとにあの場所でやってるんですねー。なんか変な感じ」
「さんは直接出席者を見る訳じゃないですもんね」
「降谷さんは会ったことあるんですか?……首相とか大統領とか」
「それはまあ、一応は。でも“会った”という程のものではありませんよ。実際に警備の話をするのは別の方ですし」
「やっぱり降谷さんってすごい人なんだ……」
「そんなに大した者じゃありませんよ。だってほら、僕がここに居たって普通のサラリーマンにしか見えないと思いません?」
「……思えません」
「そうですか?おかしいなぁ」
どう見たって彼は普通のサラリーマンには無いオーラを放ってると思う。彼の経歴を知ってるからそう見えてるのか、知り合ってしまった今となってはもう分からないけど……
でも、降谷さんが焼き鳥を串から一気に口で抜き去ってモグモグ頬張りながら食べる姿はちょっと可愛いというか。また今までと違う一面を見させられた気分だ。
「さんはよく一人で飲みに出たりするんです?」
「うん、多い方なのかな……私友達少ないんですよね。昔はあの力のせいで周りから変な子だと思われてて親しい友達ってまずできなかったし」
「ああ……僕も似たような感じでしたよ。生まれつきのこの髪と肌の色のせいでね」
「っ!それ地毛なんですか!しかも地黒?」
てっきり犯罪グループとかに溶け込む為にワザと染めたり焼いたりしたものなんだと思い込んでた。
またまた降谷さんの意外な一面を知ってしまった。
この人、見ていて、喋っていて、飽きない。ますます知りたくなる。
それに加えて、彼と会話するのは中々楽しい。(これは心理士としてじゃなく、普通にそう感じる)
なんだかんだ話を続けていると、降谷さんのスマホが鳴り出した。席を立って一旦店の外へ向かう彼は……格好良い顔してたから、また仕事の電話なんだろう。