第13章 決断のその先
ハンドルを握る零くんの横顔には笑みは一切見られない。声色も冷たい。
“今日何してた”って、こんな風な聞き方をされた事は今まで一度もない。もしかして秀一さんと一緒に居たことを、零くんは知ってるんだろうか。背中を変な汗が流れる。
全て正直に話すべきか、それとも、隠し通すべきか。
「昼間は出掛けてて、用事が終わって今帰るとこだったんだけど……なんで?」
「気になる事があってな……それに大事な話もあるんだ。ウチで話そうか」
「うん……」
渋滞気味の大通りを時間をかけて抜け、零くんの家へ向かう。でも、その車内は無言。こんなに長いこと零くんと口をきかないのも、初めてかもしれない。
暫くぶりに私が声を発したのは、玄関のドアを開けてもらった時だった。
「おじゃまします」
「いいって、もうのウチみたいなもんだろ」
「そだね……」
たしかに、もう勝手知ったる零くん家だ。何も言われずとも今から自分の座るべき場所へ自然と足が向く。テーブルを挟み、零くんと向かい合って座った。
ただ、異様な空気が流れている。
「なあ。前には赤井秀一を知らないって言ってたよな」
やっぱり秀一さんのことか……
「ウチの前にその人が居たとき……?あの時は、たしかに知らなかったよ」
「今は知ってるってことか?」
「……うん、知ってる。その少し後に知り合った。でも零くんには言わない方がいいと思って勝手に黙ってた……ごめん」
「僕に言わない方がいいってどういう意味だ?アイツと何かあったのか」
零くんはどこまで知ってるんだろう……真っ直ぐこっちを見てくる瞳に、私はどう映ってるのか。
「私この前アメリカ行ってたでしょ。零くんには言ってなかったんだけど、その時に一緒に仕事をした人っていうのが赤井さんでね……零くんに話してもあんまりいい気しないかな、と思って……敢えて言わなかったの……」
「……それだけじゃないだろ?」
勿論それだけじゃない。でもどこまで話せばいい……出来れば、あまり波風立てずに穏便に済ませたい。
悪い事をした。反省もした。もうしない。だから見逃してもらえないだろうか。
刑事に取り調べを受ける容疑者って、こんな感じなのかな……