第12章 密会は堂々と行われる
適当な店で昼食を済ませ、都内に戻ってくるともう夕方。タクシーの車内から通りの様子を眺める。
年末も近いこの時期、大通りは街灯やら街路樹に付けられた電灯の明かりでキラキラしている。
これはこれで綺麗だけど……私は昼間見た海と太陽の方が好きかもしれない。
「明日も休みなんだろう?」
「そうですけど……」
秀一さんに尋ねられた。それは、夜もこのまま一緒に居ろって事なんだろうか。
終始口数の多くない彼と二人きりだったから、海でも、タクシーの中でも、これからの自分の身の振り方について考える時間は山程あった。
昨夜“あの彼”と再会できたと分かり、これは運命か奇跡なんじゃないか、と思った。
どうしても彼に惹かれてしまうのを止められなかった。
今朝だって、出掛けることを断れば良かったのに、断らなかった。
多分、私は秀一さんが好きだ。
でも私には、秀一さんより大事な人がいて。
大事にすべきは、零くんだ。
当たり前と言えば当たり前の結論を、自分の中で出したのだ。
だから、もう……
タクシーは彼の泊まっているホテルの前で停まる。
大通り沿いの、某有名外資系ホテル。高額なタクシー代もだけど……こんな所に一週間連泊したら私のひと月分の給料なんて吹っ飛ぶだろう……って、そんな事考えてる場合ではなくて。
このまま私が何も言わなければ、きっと夕食を共にして、今夜も二人で過ごすことになるんだろう。
下車して、歩道を歩き始めて数歩目……
「あの……っ!お話ししたいことがあります」
「どうした……改まって」
「どこか……静かな所に……」
「……俺の部屋に来るか」
「いえ、それはちょっと……」
彼の顔色が曇った。あまり前向きじゃない話をしようとしてる事には勘づかれてるかもしれない。
「コーヒーか酒か、どちらがいい」
「コーヒーで……」
場所をホテルのラウンジに移した。なるべく他の客から離れたテーブルを選んで座り、コーヒーを二つ頼んだ。
「で?話とは何だ……あまり良い話で無いことは想像できるが」
手と脚を組み、睨むようにこちらを見てくる彼を少し怖いと思った。それに自分の心臓の音が大きく聞こえる。身体も震えそう……落ち着かなければ。
注文したコーヒーがやってきて、それをひと口飲み込んで……意を決した。