第12章 密会は堂々と行われる
延々と車は走り、だんだん市街地からは離れ。やっと着いたのは海岸の近く。
タクシーを下りて自動販売機で温かい缶コーヒーを買う。
空は晴れてはいるものの、肌に当たる風は冷たくて。缶を握る手元だけが温かい。
近くにあった海を臨む無人の展望台、そこのベンチに座って、冬の太平洋を目の前にする。
どこまでも続く海面に、太陽の光がキラキラと映っている。
冬の海って……初めて来たけど意外と良いかも。何なら夏より綺麗な気がしないでもない。
でもこんな季節だからか、周りには私達以外誰もいなくて。耳を澄ませば波の音まで聞こえそうなくらい静かだ。まあ、それはそれで良いのかも。
「秀一さんは海が好きなんですか?」
「好きかと言われれば、嫌いではない」
「ふーん……」
彼は掴みどころのない人だ。考えが全然読めない。読めないのに、こっちのことは見透かされてるような……
「、本当にアメリカに来ないか?」
「っえ……と、それは」
「まだ考えさせて欲しい、か」
「はい」
この海のずっとずーっと向こうに、アメリカがあるんだろうけど、そんなに簡単に行き来できる土地じゃない。
行くとなれば、私にとっては相当の覚悟が必要だ。
しばらく互いに何も口にすること無く、ただ海を眺めた。
その内だんだん寒くなってきて。温かかったコーヒーもすっかり冷めて、液体を口に含んだ感じはもう体温以下の温度だ。缶も冷えてる。
冷たい手をさすりながら、つい「さむ……」と、小声が出た。
「すまん。海に行くと先に言えば良かったな。手を出せ」
「え……あ、ありがとうございます」
秀一さんがコートのポケットから手袋を取り出し、私の手に片方ずつ被せてくれた。ブカブカだけど、なんだかすごく温かくなった気がする。
やっぱり男の人のだよな……私とは手の大きさが全然違う。なんとなく秀一さんの手元に目が行き、それから全身をを観察するように眺める。と、彼と目が合ってしまった。
「……まだ寒いか?」
「いえ……」
「そうか」
ふわっと首の後ろを彼の腕が通った。肩を抱かれて、軽く抱き寄せられる。
これは……色んな意味で温かい。
“何もしない”、こういう時間の過ごし方は嫌いじゃない。
だけど今日に限っては、ふと考えてしまう事が多すぎて……