第12章 密会は堂々と行われる
「私はまたこうして秀一さんに会えたこと、すごく嬉しかったんです。ずっとあの時の事、忘れられなかったし……」
「俺も同じだ」
「でも……実は私、今、付き合ってる人がいるんです。秀一さんと色んなことしておいて……本当最低なんですけど」
「ほう……」
「秀一さんが嫌とかじゃないんです。でもやっぱり大事な人を裏切るようなことはしたくなくて……だからもう、こういう風に会うのは、これで最後にしたいんです」
なんとか言いたかったことは、言えた。
だけど全然スッキリしない。心の中にはモヤモヤしたものが渦巻いているままだし、酷く息苦しい。
秀一さんは何かを考えるように上の方を見ながら黙っていて……暫くしてやっと視線がこちらを向いた。
「……言いたい事はそれだけか」
「はい」
聞こえたかも分からない位小さな声で返事をして、ゆっくり頷いた。
「アメリカでの仕事の話はどうする」
「それはまだ……でももしするとなったら、秀一さんと動くことになるんです、よね」
「俺もいい大人だ、その辺の分別はある。仕事に私情は持ち込まん」
「はい……」
「まあ、事情は分かった。了承する」
少しだけ、モヤが晴れてきた……かもしれない。彼の表情からも怖さが消えたように見えるからか。
コーヒーをひと口啜って、椅子に深く座り直した。
「ひとつプライベートな事を聞くが、の恋人は降谷くんではないのか?」
「っ!?どうして、ですか?」
腰が浮きそうになる程ビックリした。どうして……
「全く……嫌な予感は当たるもんだな」
「……まだ私否定も肯定してません」
「顔に出ている」
今まで秀一さんの前で零くんの話なんてした覚えはない。一緒に居る所を見られたのも、自宅の前で会った時だけ。でもあの時はまだ、私と零くんはそういう間柄じゃなかったし。
「まあいい……これからも仕事のパートナーとして宜しく頼む」
「……は、はい」
出された片手を取って、力強く握手を交わす。
これでいい。
どうして私の恋人を零くんだと思ったのかは聞けなかったけど……
コーヒーを飲み干し、その場で別れた。
ホテルを出る直前、トイレに入り、ずっと手帳に挟んだままだった“あの彼”の置き手紙をゴミ箱に捨てた。
家に帰ったらあの部屋着も捨てよう。
これで、よかった。