第12章 密会は堂々と行われる
朝食を片付け、順番にお風呂も済ませ。のんびり朝の時間が進んでいく。
「今日予定は何かあるのか?」
「予定って言える程の予定は……ないかな」
「なら今日一日、付き合ってくれ」
「……はい。でも出掛けるんなら待ってください!まだ洗濯終わってないし化粧もしたいし……」
「俺もホテルに戻って着替えてくる。またここに迎えに来ればいいか?」
「……どこか行くんなら、そこで待ち合わせでもいいですよ?」
「特に行き先は決まっていない」
「へ?」
「俺はと一日ゆっくり過ごしたいだけなんだが。用が無いと駄目なのか?」
「……ダメじゃないです……じゃあ、待ってます……」
「ああ」
秀一さんは私の頭をぽん、と撫で、唇に小さくキスをして。家を出て行った。
彼の思惑が分からない。昨夜眠る寸前に聞いた言葉がふと思い出され……益々頭がこんがらがりそうになる。
私と彼は、今どういう状態なのだ。もう単なる仕事相手じゃないことだけは明白だけど……
二人で出掛けるのは、あまり良くない事だと思う反面、心境は少し浮つき気味なんだし……
……ハッキリしなきゃいけないのは自分かもしれない。
スマホのメッセージアプリを開く。零くんにとりあえず朝の挨拶を送る。それだけ。と言うよりそれしか送れない。
いつもよりメイクに少し時間をかけて……毎度黒っぽい服ばかりの秀一さんと出掛けるんだから、私も今日は黒いワンピースにしようかな、なんて思いながら洋服を選んでいく。これじゃまるでデートにでも行くみたいだ。
準備が整い数分後。ちょうどいいタイミングで秀一さんはタクシーに乗って戻ってきた。
私も乗り込み、タクシーはまた走り出す。
行き先は何処なのかを尋ねると、少し楽しげに彼は「さあな……」と言った。さすがに変な所へ連れて行かれはしないだろうけど……どこなのか分からないのもちょっと不安。
ずっと東の方へ向かって走って、車は都内から出たようだし。タクシーの料金メーターがガンガン上がっていくのが、また不安でもある……