第12章 密会は堂々と行われる
心臓が止まるかと思った。仕事相手に突然キスされるなんて未知の経験だ。いや正確には、過去に身体を重ねた相手でもあるのだけれども……
ゆっくりと唇が離れて、また近付く。上唇を甘く食まれ、舌が入り込もうとしてくる。
……この感じ、絶対知ってる。
口内へ侵入を許してしまえば、舌同士が蕩けるように絡まり合って、解けては繋がり……次第に意識がフワフワとして……身体は完全に彼に反応し、熱を持ち出した。
このキスを、私は覚えてる……彼は、本当に昴さんなのだ。
だからって、どうしたらいい。
「どうやら……分かったようだな」
「は、い……」
「……ずっとこうして、触れたかった」
また頬を彼の指が滑り、唇が重なる。背中を強く抱かれて、胸が苦しい……
彼の唇も、匂いも、あの時と一緒だ。でも今の私は以前の私とは決定的に違う……零くんの存在だ。彼とこんなことしてる場合ではないのだ。
なのに。頭ではそう思ってるのに、身体は全く逆で……唇を重ねることを止められない……
やっとの思いで、彼の名前を口にする。
「っ、赤井さん……」
「呼ばれるなら“秀一”の方がいい…………」
顔を近付けたまま、目の前の彼が言う。ゾクりと背すじから脳ミソまで震えた気がした。あの時も、こんな風だった。魔法でもかけられたみたいに、彼に引き寄せられ、吸い込まれそうで……
それでもなんとか距離を取ろうと試みる。だけど再び唇は塞がれ、抱かれる腕にも力が入り、身動きも取れない。
ここで踏み留まって引き返すべきだ。
でもこの先におそらく待ってる、甘い甘い愉悦に浸ってしまいたい……
善い私と、悪い私が、頭の中でひたすら対峙を続けている。
「秀一さん……」
「そうだ……」
身体が不意に持ち上がって驚いていると、赤井さんの膝の上に乗せられて。向かい合ってもう隙間なんて無いくらい強く抱き締められた。
首すじに顔を埋められ、何度も軽く吸いながら唇を付けられる。
プツン……と、何かがちぎれた。
なんとか保っていた理性の壁が支えを失って、ボロボロと崩れていく。