第12章 密会は堂々と行われる
「少しの間世話になるだけのつもりだったんだが、思いの外ココは居心地が良かった……あの時の俺は君に特別な感情を持ち始めていたと思う。そんなもの持ち合わせた所で別れが辛いだけなんだが」
「え……」
「二日目の朝、一人で目覚めて考えた。もし起きた君と言葉を交わせば、余計に離れ難くなりそうでな……だから顔を合わせる前に出て行った。勝手だった。本当にすまなかった」
「いえ……もう、いいです」
「俺が良くない。さんには、結果的に辛い思いをさせてしまったようだし」
「……大丈夫ですから……もう謝らないで」
本当に申し訳なさそうに頭を下げる赤井さんを見て、逆にこちらが申し訳なくなってくる。
でも……それって、あの時私と彼は思い合ってたかもしれない、ってことになるんだろうか。
「この家を出てからも……君のことはずっと頭にあった。仕事にケリが付いたら必ず礼に行くと決めていた」
「もしかして……この前ウチの前にいたのは」
「そうだ。なんせ君の事で知っているのはという名前とこの家の場所くらいだったからな。帰ってくるのを家の前で待っていたんだ。あの時は降谷くんに邪魔をされたが、おかげで君の職場も知れて、今度はそちらから接触させてもらうことにした」
「だったらもっと早く教えてくれてもよかったのに……」
「言おうとした。ワシントンでも。だが今度はドクター水野に邪魔をされてな」
「……水野先生?」
「さんが意識を失っている間、彼と二人になって……過去に君に世話になった事があると話をしたら、血相を変えて怒られたよ」
「……あの時の状況なら、たしかに有り得るかも」
「だから今回は邪魔が入らんよう、二人で会いたかった訳だ」
信じられない話を聞かされて頭は混乱してる筈なのに、不思議と妙に落ち着いている自分がいる。話が突飛過ぎてまるで他人事のように聞こえるからかもしれない。
「ほんとに、本当に、昴さん、なんですよね……」
「……まだ信じられないか」
「頭では理解したつもりなんですけど……」
「これなら、どうだ……?」
頬を彼の親指の腹が滑った、次の瞬間、首の後ろに回った手に頭部が引き寄せられ、気付けば彼と唇が重なっていた。
動けず、言葉も発せず。思考は一時停止する……