第12章 密会は堂々と行われる
「俺が日本で潜入捜査をしていた事は話したよな」
「はい……あの烏丸のやつ、ですよね?」
「そうだ。俺は一度その組織に潜入したはいいが、正体がFBIだとバレて組織から追われていた身でな。しかもさんに会ったあの当時の“赤井秀一”はその組織に殺されたことになっていた」
彼は当時、存在していない人となり、そのままの姿では外に出歩けない為、“沖矢昴”という人間に成りすましていたんだと。
信じ難いけど、彼が嘘を吐いているとも思わない。
それに、それなら色々納得出来る事もある。やけに“あの彼”と赤井さんが重なって見えたり、さっきだって元々トイレの場所を知ってたのなら……やっぱりそうなのか。
「それは分かりましたけど……顔が全然違うじゃないですか。声も……」
「顔は特殊メイク、声は……ココに付けた変声機で変えていた」
メイクでここまで別人になれるのだろうか。
赤井さんが喉元を触る。どうやら変声機っていうのがそこにあるようだ。
「これで声が変わります」昴さんの声がする。
「あ……」
「これでまた元に戻る」また赤井さんの声に戻った。
「ええぇ……すごい……」
「……信じてくれるか?」
「ほんとに……昴さんが赤井さんなの?」
「そうだ。それであの日、この家の下で座り込んでいた俺に、さんが躓いた」
「そう」
「俺はこの家で二晩世話になって、礼も言わずに勝手に出ていった」
「そう……そうです。どうして、何も言ってくれなかったんですか……」
赤井さんは、ゆっくり言葉を選ぶように話し出した。
「……そもそもあの時の俺は、一般人と深く関わっていい身分ではなかった。俺に何かあったらその人間まで巻き込んでしまう恐れがある」
「たしかに……」
「だがあの日、家が火事で燃えてしまって寝る所もなかったのは本当でな。どうすべきか思案していた所、偶然さんに会った。つい立場を忘れて……親切心に甘えさせてもらった」
「はい……」
「久しぶりに穏やかな楽しい時間を過ごせた」
「私も、そうでしたよ……」
あの日の記憶が蘇ってくる。二人でなんとか料理を作って食べたこととか……全部を包み込むように抱き締めてくれる腕の中がすごく心地よかったことも……湧いてくる欲のままに互いを求め合ったことも……