第12章 密会は堂々と行われる
「やり甲斐はかなりあると思うんだが」
「それは、そうかもしれませんけど……」
アメリカで暮らすなんて考えた事もなかったし、何がって毎日あの力を使うのは、本当は嫌だ。
だけど、沢山の人の命を救えるのなら……やるべき事なのかもしれないとも思う。
「やっぱり、少し考えさせてください……」
「いくらでも待つ。すまんがトイレを貸してくれ」
「あ、はい。どうぞ」
赤井さんが立ち上がり、部屋の隅へ向かう。そこには全く同じ見た目の二つの扉がある。洗面所と浴室への扉と、トイレへの扉。
「右の方がトイレです」と私が声を掛けたのが早かったか、彼がトイレの扉のノブに手をかけたのが早かったか……ほぼ同時だったような気がする。
よくそっちだって分かったな、と思うのと同時に、デジャブのようなものも感じて。もしかすると、また赤井さんと“あの彼”とを重ねてしまったのかもしれない。ほんと今日の私はどうかしてる。
だけどトイレから戻ってきた赤井さんの、コーヒーカップを持つ大きな手にも、頬杖をつく仕草にも、なんとなく“あの彼”を思い出さずにはいられなくて……
「俺に何か付いているか?」と聞かれるまで、どうやらじーっと彼を見つめてしまっていたようだ。
「すみません!ボーッとしてました」
「いや、いい。しかし……さんは相手が男だろうが構わず人を家に上げるタイプなのか?」
「そんなことありません!付き合ってもない男の人を家に上げたのは……今日が二度目です。でも変なんですよね……さっきからそのもう一人の人と赤井さんがすごく重なって見えちゃって」
「ほう……どんな奴なんだ?その一人目の男は」
「どんなって……」
優しくて、礼儀正しくて、赤井さんくらい背が高くって、カッコよくて……めちゃくちゃいいカラダしてて信じられないくらい身体の相性も良かった(とまでは言えないけど)
「そんな人が、今夜泊まる所が無いから野宿するって言ったんですよ?それで家に泊めたんです。あんなの……アレが最初で最後です」
「しばらく二人で楽しく過ごしたが、その男は別れも告げずに去っていったんだろう?」
「そう!なんで分かるんですか!」
「どうしてだと思う」
「……もしかしてその人を知ってるの?」
「知り合い……あながち間違いではないな」