第12章 密会は堂々と行われる
自宅前でタクシーを降り、空を見上げる。今日は、満月を少し過ぎた月だ。まだまだ真ん丸に近い。
「綺麗だな」
「えっ?」
「月が」
「そうですね……」
一瞬、月を見上げる赤井さんが“あの彼”と重なって見えた。たしかに高身長で手脚の長いその背格好は……似てるかもしれないけど……顔も声も全然違う。
部屋に入って電気と暖房のスイッチを入れ、上着を預かり。赤井さんの座るソファの前に電源を入れたPCを持っていく。
コーヒーを用意して、彼の隣に腰掛けた。
零くんでない男性と部屋に二人きり、良くない状況であるのは分かってるけど、やましい気持ちは一切無い。
赤井さんがUSBメモリをポートに差し、その中のファイルを開く。
「普通一般人に見せるものでは無いからな、見たことは黙っておいてくれ」
「分かりました」
見せられたのは、ニューヨーク市街地でここ一ヶ月に起こった死亡事故、事件の資料。
交通事故がいくつか、強盗殺人、銃の暴発による死亡事故、怨恨による殺人とか……
「たったひと月でこれだけ、しかもこれらはほんの一部だ。多いと思うか?」
「……はい。日本よりかなり多いんじゃないですか」
「そうだ。では、この中に、防げたかもしれん死もあったんじゃないかとは、思わんか?」
「……思います、けど……」
それを考え出すといつも良くない方向へ思考が向いてしまう。
もし私が予見できていたら、死なずに済んだ人もいるかもしれない。死んでしまったのは私のせいじゃないけど、自分のせいのような気がしてくるのだ。
気が重たくなって。言葉が出てこなくなってしまった。
「悪い……責めているつもりは無いんだが」
「いえ……」
「続けても平気か」
「はい」
「例えばこの交通事故だが……」
原因は車の運転手の酒酔いだったそう。もし事故が起こるとを先に予見できていたら、その手前で事故を起こす車を取り締まればいい。他の交通事故も、殆ど未然に防げそうだ。
それに、強盗だって狙われる場所が予め分かっていれば防ぐのは簡単だ。
毎日街中を能力を使いながら周り続けたら、どれだけの数の事故、事件を防げるのだろうか。