第11章 安穏の白、走り出す緋。
は何度目かの絶頂を迎えた後ほとんど動かなくなってしまって。僕は彼女の身体を就寝するのに適した場所へ動かした。
穏やかに寝息を立て始めた彼女を愛しいと思うと同時に、自分の行動に後悔もしていて……
といると自制心が効かない事がある。情事中は特にだ。欲のまま自分勝手に突っ走る僕を、彼女はどう思ってるだろうか。
女性に好かれ、喜ばせることは容易いと思ってたけど、そんなに簡単ではなかったのかもしれない。
静かな部屋の中、自分の物ではないスマホの通知音が遠くで短く鳴った。
こんな時間に彼女に連絡してくる人間がいるのか。まあ特別変な事でもないけど。には親しい友人って多くないみたいだし、家族もいないとなると……水野先生か、誰だ?
悪人でもない、捜査対象でも無い、普通の一人の女性に対してこんなに悩むなんて、前代未聞だ。
でもこれはおそらく世間一般に起こり得る普通のことで、きっとこんな事で頭がいっぱいになるのも普通で、むしろ僕は幸せなんだろう。
夕食に使った皿を洗い、部屋を片付けて、には悪いけど自分だけ寝る支度をさせてもらう。
最近、毎度顔がニヤけそうになる瞬間がある。洗面所に置いてあるの歯ブラシを目にする時だ。
部屋にはの私物も結構増えてきた。そんなことが嬉しくて仕方ない。
支度を済ませてベッドに戻ると、おそらく無意識だろうけどが擦り寄ってきた。
頭を撫でてやると、嬉しそうに口元が緩んだ気がする。
彼女を起こさないように背中をそっと抱く。ふと自分の顔もだいぶ緩んでいることに気付く。情けない顔になってるだろうけど、今なら誰にも見られないし……いいか。
「……おやすみ、」
「んぅ……っ」
一瞬が起きてるのかと思ったけど、眠ってるみたいだ。額にキスをして、僕も目を閉じた。