第11章 安穏の白、走り出す緋。
“そちらの日付で言うと来週の月曜から、1週間程東京に滞在する。
都合のいい日を教えてくれ。”
翌朝零くんのベッドで目覚めて、昨晩化粧も落とさず、歯すら磨かずに寝た自分に罪悪感を覚えながら……ボーっとした頭でスマホをチェックすると、夜の間に届いていたメールがあった。送り主は、赤井さん。
来週は……普段通りの仕事がある以外は特に何も予定は無かったはず。零くんと休みが被ることもない。金曜の夜か土日、零くんが仕事してる時間帯に会えれば一番都合はいいか……
なんで私がコソコソしなきゃいけないのだ……でも零くんに言うとなると気が重すぎる……でも事情を話せば零くんなら分かってくれるかもしれない。だけど……やっぱり言えない。
寝起きの頭がみるみる冴えていく。キッチンに立っている零くんの様子をチラッと伺うと目が合ってしまった。
「ん??どうかした?」
「……顔洗ってから寝たかったなーって……無理矢理でも起こしてくれれば良かったのにー」
つい、自分勝手な悪態を吐いてしまった。
「ごめんな、今度からそうするよ」
「ううん。勝手に寝たのは私だし、ほんとは私が悪い……ごめん」
優しい彼の言葉に心が押し潰されそう……
赤井さんにはまた一人になったときに返信しようと決めて。
スマホを置いてシャワーを浴びに浴室へ向かった。
それに、もう一つ零くんに申し訳ないと思うことがある。
髪を洗っていると、ふと“あの彼”の事が頭を過ぎった……私はやっぱり“あの彼”のことをちゃんと忘れられてはいないのだ。
今みたいにふと思い出す事はかなり減ったものの、夜家に帰った時に空を見上げるのは未だに毎度だし、結局“あの彼”の残した手紙も部屋着も捨てられないままなのだ……
少しずつ、忘れていければいいと思ってるけど……