第2章 恋はまだ始まらない
「……電話してる姿はたしかにカッコイイなーって思いましたけど」
「それだけか?」
「それだけですよ……」
「とりあえず明日あと一日降谷さんと仕事してだな……お前はきっと彼にまた会いたいって思う筈だぞ?……まあいいか」
なにが「まあいいか」だ。私の心で遊ばないでほしい。降谷さんは素敵な人だけど、それ以上でもそれ以下でもない。
家に帰り……寝る支度を済ませてベッドに入る。
なんとなく、降谷さんの顔が頭に思い浮かんだ。
まあでも、彼を好きになるならないは別として……降谷さんみたいな人が彼氏だったら、すごくいいのかもしれない。
優しくて、頼りになって、そういえば車の運転も上手だった。運転が上手い人って、セックスも上手だって言うしなぁ……
つい、あのきちんとしたスーツを脱いだ降谷さん、きっとめちゃくちゃいい身体してるんだろう、その彼との情事を想像しかけて……下品な思考を振り払った。
彼とは明日も一緒に仕事するのだ。仕事相手でそんなこと考えちゃいけない。
そして翌日。降谷さんとの仕事の最終日。
今日はサミットの本会議が開催される日でもある。
相変わらず電話中は凛々しい降谷さんの表情を横目でチラチラ眺めつつ……都内を点々と周り最後に空港を見て。
夜にならない内に何事も無く終了し、また大学前まで送ってもらう。
「水野さん、さん、今回はご協力ありがとうございました」
シートベルトを外した降谷さんがこちらに振り向き頭を下げた。
「はい!降谷さんのおかげでリラックスして仕事できましたし!本当にありがとうございました!」
「いえ……それで、もし今度お二人に僕を診てもらうには、どちらへ伺えばいいんです?」
「……本来は東都大の付属病院で、となるんですが……降谷さんでしたら研究室に直接来てもらえれば大丈夫ですよ」
「そうしてもらえると僕も助かります」
「ご職業柄色々あるでしょうしね……おっと、そうだ、お前の名刺を降谷さんに」
「あっ!はいっ!」
……なんで先生のじゃなくて私の名刺なのだ。出すけれども。
えっと……名刺はどこだったか…… カバンをゴソゴソする。