第11章 安穏の白、走り出す緋。
「……いや、もう終わりだ」
「えっ?」
「ヒロの墓は無いんだ」
「あ……ごめん」
「謝らなくていい。墓があるのが普通だもんな」
ヒロくんって言うのは、例の組織へ潜入中に正体が警察官だとバレて、赤井さんに追い詰められ自決したって人……零くんの一番の親友。
捜査官が潜入先で死亡した場合、家族にも友人にもその死が知らされない事はよくあるみたいで……遺体は家族の元にも届かず、つまりお墓も無いってことらしい。
「ヒロには心の中で挨拶してくれればいい」
「うん……」
走り出した車の中、しばらく互いに何も言わず黙り込んだ。
別に、お墓参りだけが重要な訳じゃないと思う。形式があるからそうしてるだけで。こうやって思い出して、悼んだり懐かしんだりすることの方が、きっと大事だ……
目を閉じて、写真で見たヒロくんの顔を思い浮かべる。零くんは、何て声を掛けてるんだろうか。
「……零くんってお墓でいつも喋ってるの?」
「最近は喋ってるかもな。変か?」
「変ではないけど……」
「……潜入してた頃も、墓参りは行ってたんだ。でも万が一知り合いに見られたらマズいだろ?僕は降谷じゃなかったし。だからほとんど通り過ぎるくらいで済ませてた……今ならしっかり向き合って言いたい事も言えるしな」
「そっか……」
「……堂々と墓参りもできない、死んでも墓に入れない仕事って、どうかしてるよな」
「でも……必要な仕事でしょ?」
「悪い人間がいる限りは」
「……いなくならないだろうけどね」
「残念ながらそうだな……だから警察や法律が必要なんだ。僕らは戦って、守り続ける……」
零くんの顔付きと声色が、ぐっと凛々しくなった。
お父さん、お母さん、どこかで見てますか。私の彼氏は、本当に素晴らしい人です……
「私も自分にできること頑張ろ……まず零くんの足元にも及ばないけどね」
「……は十分やってるだろ。僕はって、大らかな中にちゃんと強い芯があって……すごくいいと思う」
「そう……?ありがとう」
「でも、はすぐ自分を卑下するだろ。もっと自信持てばいいのに」
「自信なんてないもん」
「僕は認めてる。は素晴らしい女性だ」
褒められすぎるとフワフワして落ち着かない。
話題を切り替えて、平常心を保った。