第11章 安穏の白、走り出す緋。
赤井さんとの食事の話は結局誰にも言わないまま、それからしばらく経った休日のこと。
久しぶりに零くんと休みも一緒、天気も悪くない。ということで、今日は前々から行こうって言ってた、“都内墓地巡りデート”だ。
まずは私の両親の所から始まったのだけれど。
「初めまして、さんとお付き合いさせて頂いてます、降谷と申します……」
零くんがお墓に向かって頭を下げ、一人真面目に喋り始めたから、一瞬固まってしまった。
「さんのことは絶対に大切にします……どうか温かく見守っていてください」
周りに人は居ないけど、かなり照れくさい。
気を取り直して私も目を閉じ、ここ最近の報告したいことをツラツラ心の中で述べた。
隣の零くんと付き合ってること、その零くんはすっごい優秀な警察官なんだってこと……
それからこの前初めてアメリカで仕事をしてきたことに、料理の特訓をしてることも……
水野先生以外の人と一緒にお墓参りをするのはいつ以来だったか。久しぶりに連れてきた相手が恋人で……父母は喜んでくれてるだろうか。
そんなの聞いたって返事はないし、自分の中で都合よく“認めてもらえた筈だ”と解釈するけど。
次は松田くんの所に来て。
零くんは、それこそ久しぶりに会う友人の家を訪ねるみたいな雰囲気でお墓に向かってまた声を掛ける。促されるまま、私もお墓に向かって喋らされる。
「命日でもないのに何しに来たって思っただろ?実は紹介したい人がいるんだ。ほら、」
「は、初めまして、です……」
「恋人なんだ。驚いたろ。しかも可愛いだろ?僕の最高のパートナーだ」
「あの、えーっと……よろしくお願いします」
当然松田くんからも何も言葉は返ってこない。ロウソクの炎がユラユラ揺れている様すら、何か彼からのメッセージなんじゃないかと思いたくなるくらい、墓地はシンとしてる。
だけど零くんの顔付きは爽やか、清々しい。松田くんがいつも吸ってたんだという銘柄のタバコの封を切って、供えて、しっかり手を合わせてから……車に戻った。
萩原くん、伊達くんの所にも行って。同じように紹介され、挨拶をして。
「じゃあ、最後はヒロくんの所だね」と何気無く言ったら、零くんの顔が曇った。