第10章 気分は上々……
ついに車は自宅付近。
「車ってどこに停めたらいい?」
「大家さんに連絡入れれば一晩くらいはウチの駐車場で大丈夫だと思う。電話してみるね」
大家に連絡を入れ、空いている駐車場に零くんの車を入れて。とうとう自宅の部屋の前まで来てしまった。鍵を回して、恐る恐るドアを開く。
「あんまり綺麗じゃないいけど……どうぞ」
「お邪魔します。へえ……なんかっぽいな」
「そ、そう……?」
電気を点けて、部屋が大丈夫な状態である事を確認して。しばらく締め切ってた窓を開けると、外の乾いた空気が流れ込む。
「そこ座ってて!」と零くんにソファを勧め、スーツケースを脱衣場まで持っていき、中身を超速で片付けた。
お土産の入った紙袋を手にして部屋の方へ戻ると、彼は微動だにせず大人しくソファに座っていて。なんでだろう、その姿を見て顔面が綻んだ。
隣に座って、袋を差し出す。
「はい。お土産」
「別にいいのに。でもありがとう……バーボンか」
「そう!」
「……もこういうの好きなのか?」
「私はそこまでじゃないけど……アメリカって言ったらバーボンでしょ?前に零くんの家にもあるの見たから、飲むのかなーと思って……零くん?」
どうも彼の顔付きが冴えない気がする。もしかして私、変なもの買ってきた?
「僕が潜入してた烏丸の組織の幹部達には、コードネームが与えられてて。それはそれぞれ酒にちなんだ名前だったんだ」
「へ、へえ……?」
「僕に与えられた名前が、“バーボン”だった」
「え!そうなの!」
零くんは少し笑うと、黙り込んだ。何を考えてるのか。
「……信じられないよな」
「……なにが?」
「あの頃は考えもしなかった。普通に恋人を作って、楽しく過ごせる日が僕にも来るなんて」
「そっか……まあでも、今は楽しくて良いってこと、だよね?」
「ああ。最高に幸せだな」
よかった。フフっと笑いながら、目が合って。そのまま視線を外さずにいれば……自然と顔が近付き唇が重なる。
離れてはまた重なって、その柔らかい感触はクセになりそうなくらい気持ち良い。
鼻先をくっつけたまま名前を呼ばれて、耳の後ろから首すじを零くんの指先が滑っていく。ゾクゾクして、力が抜けそう……
もしかして、そういう流れだろうか。だとしたら。