第2章 恋はまだ始まらない
目を閉じ意識を集中させていくと……頭の中に白っぽい光のようなサインが出る。そうしたら、本当に、本当にゆっくりと瞼を開けていく。この瞬間が一番嫌。目を開けたら、遺体が見えてしまう時があるからだ。
幸い、何も変わりない風景がそこには広がっていたけど。
「大丈夫です……」
「そうか」
「では次は……」
場所を移しては、この作業を何度も繰り返す。
空港の中を散々見た後は、ホテルへ向かう。
世界のVIPの宿泊する部屋にお邪魔できるのは役得かもしれないけど、実際の所もう結構頭が参ってきてて残念ながら全く楽しい気分ではない。
「こんな部屋一回は泊まってみたいなー……いいよねー、仕事でこんなとこ泊まれるなんて。私なんてさ……」
「そんなに泊まりたいんなら金持ちの旦那を捕まえたらどうだ」
「はいはい分かってますよー……いっつも水野先生は余計なこと言うんだから……あーぁ……」
「さん、お疲れのようですね……一度休憩しますか」
「え……いいの?」
「僕は構いませんよ。今日はこの仕事が終わったら車を戻して終わりですし」
「でも降谷さんだって早く帰りたいでしょ」
「どうせ家に帰っても一人ですし。ラウンジでお茶でもしていきましょうか」
「やった!降谷さん超いい人ー……」
警察の人間にこんな風に気を使ってもらったのは初めてだ。
今まで警察とは何度も仕事してきたけど、皆私の能力に関して半信半疑って感じでジロジロ変な目で見てくるからいい気分ではなかったし。
その点、降谷さんは私を軽蔑視することもなければ、こうやって気も使ってくれて。彼はすごいだけじゃない、優しい人だ。
ホテルのラウンジへ移動し、そこでも明日この場所で誰も死なないのかを確認して……信じられない値段の紅茶を頂く。頭が疲れてる時は砂糖を多めに入れた甘いやつがいい。
「あー……生き返った気分です」
「良かったなーー」
「はいー……」
「僕も良かったです。まさかさんがこんなに喜んでくれるとは」
にこっと微笑む降谷さんが、天使に、いや、神様に見える……彼の後ろが明るく輝いてる気すらしてくる。