【ヒプマイ】よふかしのうた : R18 : 短編集
第5章 ※どこまでも堕ちる 一郎
「だってなんか、一兄ゆくゆくは結婚しちゃうのかなぁとか思ったら急に悲しくなっちゃってさ!」
「結婚って…それは話が飛びすぎだろ」
「分かんないよ?一兄が結婚したら、家出て行っちゃうかも知んないし。新婚さん邪魔できないでしょ〜」
自分で言って、自分で傷ついている。これ以上言葉を発したくない。今まで一兄が私にかけていてくれた言葉が全部嘘だったこと、本当は他に付き合っている人がいること、そうなると私はただの性処理扱いだったということ。どれもこれも、私にはいっぱいいっぱいすぎる。
その後もなんとかヘラヘラしながら、ご飯を食べて、お風呂に入って、ベッドへと入ることができた。でも、涙が止まってはくれなくて。私の恋は種になって、水を上げて育てる暇もなく枯れてしまった。
でも、よくよく考えればこれでよかったのかもしれない。元々私たちは兄弟なのだから。私が距離を取れば、自然とこの関係も消えて無くなってしまうだろう。一兄が始めたこの秘事は、一兄のおかげで終わりにすることができる。
私って、自分の意思どこにもないんだなぁ。
そんな自嘲的な笑みさえ溢れてきて。自分も、一兄も、なんだか何もかもが嫌で。現実から逃げるようにギュッと瞳を閉じた。
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あれから、私は一兄とそういう雰囲気にならないようにした。…もしかしたら、以前のようなただの兄弟に戻れるかもしれない。私の恋がたとえ叶わなくとも、それが私たち家族にとって最善の形のような気がするのだ。
「や、山田さん…!」
放課後、下駄箱で靴を履き替えていると後ろから名前を呼ばれた。振り向けば、一応顔と名前が一致する他クラスの男の子が。
「あ、あのさ!今日一緒に帰ることってできるかな?」
「え…う、うん、いいけど…」
私がそう返すと、彼は嬉しそうに笑って急いで靴を履き替えた。何か用事でもあるのだろうか。そんな疑問を抱えながら、2人で校門を抜ける。
「ごめんな?急に一緒に帰ろうとか言って」
「ううん、何か用事でもあった?」
「いや、まあ用事というか、なんというか…」
少し思い悩んだように遠くを見つめてから、バッといきなりこちらを向いた。
「えっと…山田さんって今彼氏とかいたりする?」
「………いないよ」
「じゃ、じゃあさ!俺と付き合わない?」
「へっ!?」