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【ヒプマイ】よふかしのうた : R18 : 短編集

第5章 ※どこまでも堕ちる 一郎


「ただいま〜」
「おかえり〜、今日カレーにすっから手伝ってくんね?」
「了解!」
「僕も手伝いたいんだけど、明日提出の宿題がたくさん出ちゃってさ…」
「宿題真面目にやってることが偉すぎるよ」


すぐに二階に荷物を置いて、着替えてから一階へと戻った。じろ兄が野菜を洗ってくれているので、包丁を手に取りトントントン、とその野菜を切っていった。


「な、超ビッグニュースあんだけど聞きてぇ?」
「聞きたい」
「まじでびっくりすると思うぜ」
「もー、勿体ぶらずに教えてよ」
「兄ちゃんさ、彼女出来たっぽいんだよね〜」


…あぁ、あの依頼人の人と一緒にいるのを見たのかな?


一瞬肝が冷えたが、すぐにあの人だと思い当たりホッと安堵する。


「ああ、私も会ったことあるよ」
「え、まじ?」
「うん。でも実はあの人…」
「じゃあ結構長ぇのかなぁ。でも道端でチューするとか、付き合いたてで兄ちゃんでもテンション上がることあんだなぁとか思ったんだけどな〜」


ザクッ


「わー!?お前なにやってんだよ!?さ、さぶろ!救急箱!!」


ガタガタッと後ろで三郎が慌てて立つ様子が伺える。私は人ごとのように人差し指から流れ出る血をじっと見つめていたのだが、その指をティッシュでギュッとじろ兄に握り込まれてやっと痛みを感じた。


「いたっ…!」
「これで抑えてろ!うわ、結構血ぃ出てんな…」
「一応消毒してから絆創膏貼った方がいいね。、ここ座りなよ」


三郎に消毒をしてもらい、絆創膏を巻いてもらっている間にも先ほどのじろ兄の言葉が脳内を反芻していた。


『道端でチュー』


…ただの依頼人に、そこまでするのだろうか?いや、しない。例えするとしても、フリとかでいいんじゃないの?あ、もしかしてじろ兄見間違えちゃったのかな。


「ね、ねぇ、じろ兄」
「んー?」
「一兄がキスしてた話って…ほんと?顔が近かった、とか漫画みたいなオチじゃなくて?」
「いーや、俺は確かにこの目で見た!しっかりチューしてたと思うぜあれ。…つーか、なんか一兄のこんな話家族みんなでするってもの変な話だよな…って、おい!?な、なんで泣いてんだよ!?」
「……え?」


そう言われて、自分が涙を流していることに初めて気付いた。こんなところで泣いたら変に思われる。慌てて涙を拭い、ヘラリと笑って見せた。
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