【ヒプマイ】よふかしのうた : R18 : 短編集
第4章 ※愛しているのに 銃兎
玄関を開けると見慣れた靴が揃えて置かれてあるのが目に入った。私は少し口元を綻ばせリビングへと向かう。
「あぁ、お帰りなさい」
「たっ………ただいま」
銃兎は椅子に座っていたのだが、私が帰ってきたと気付くとゆっくり振り返り微笑んだ。でも、その顔を見てヒュッと背筋が凍るのを感じた。口元は綺麗に弧を描いているのに、目が全く笑っていないのだ。
「とりあえず、ここに座って頂けますか?」
銃兎が指しているのは、テーブルを挟んだ向かいの椅子。その有無を言わせない口調に、私は黙って言われた通り席につく。銃兎が敬語を使うのは怒っている時のサインだ。
「」
「はい…」
「今日は貴女休暇をとっていますよね?実家に寄る用があると…そういう理由でしたね」
「はい…」
「ならどうして、男と2人でレストランなんかに行っているんですか?しかも…綺麗に、着飾ってまで」
ドキッと心臓が大きく跳ねた。どうして銃兎がそのことを知っているのだろう。私は今回のことは誰にも伝えてないし、知り合いにも出くわしていないはず。
「なぜ知っているのか、とでも言いたげな顔ですね。…お母様から聞いたんですよ。がお見合いをしているけど別れたのか?とね」
お母さん……!!!
え、何?銃兎と別れてさっさと結婚して欲しかったわけじゃないの?てか普通娘に聞くでしょうが…!
「さて、俺は別れたつもりないんだが…どういうことか説明してもらおうか。もちろん、俺が納得できるような理由があるんだろうな?」
さっきまでの気持ち悪い敬語がはずれ、銃兎は腕組みをして私のことを見下ろす。その視線が痛くて、肩を少しすぼめた。
でも、元はと言えば銃兎が結婚の話題を避けてきたのが原因ではないだろうか。アラサー近くになったら結婚したくなる女性の気持ちって、分かってくれるもんじゃないの?
…あれ、なんかだんだん腹立ってきたな。
「じ、銃兎が…」
「あ?」
「銃兎が…なかなか結婚してくれないからでしょ!私たちもう付き合って長いし、アラサーだし…。結婚の話題振ってみたり雑誌置いたりしてアピールしても全然気付いてくれないじゃん!!」
急に大声を出したからなのか、銃兎の肩がわずかにぴくりと跳ねる。1度出てしまった言葉は、なかなか止まってはくれない。