【ヒプマイ】よふかしのうた : R18 : 短編集
第4章 ※愛しているのに 銃兎
「とにかく!後で詳しい事はメールしておくから、確認しなさいね!」
「あ、ちょっ…」
ブツッ、と一方的に電話を切られてしまい、私も携帯を少し乱暴にデスクの上に置いた。そしてすぐ後にピコン、と通知が鳴り母がさっき言っていた詳細を送ってきたのだと察する。
『あんただってもういい年なんだから、今のままでいいのかちゃんと考えなさい?」
「いい年、かぁ…」
確かに、もう30歳を目前にするといい年と言われてしまっても仕方ないのかもしれない。結婚して、子供を産んで…そういうことが当たり前になってもおかしくない年齢ではある。
幸せになるためには、愛しているという気持ちだけでは駄目なのだろうか。私は…別の人を選ぶという選択肢も、持つべきなのだろうか…?
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「久しぶり、ちゃん。すごい…綺麗になったね。あ、いや!小学生のときも可愛かったけど!」
「あはは、ありがとう」
結局、私はお見合いに行くことにした。きっと丁重にお断りさせて頂くだろうけど、母からの催促メールや電話が酷くてついに私が折れたのだ。
久しぶりにしっかりお化粧をして、髪の毛までセットして。もう2度と着ないであろうレンタルドレスを着用して。私はただただ料理を味わうことに集中していた。彼との会話はわりと楽しいものであったし、これと言って気分を害するようなこともなかったのだけど、どこか銃兎と比べてしまう自分がいた。
銃兎ならここで小馬鹿にしたように笑うだろうな、銃兎ならこんなに食べないだろうな、銃兎なら…。私はやっぱり銃兎のことが好きだ。愛している。彼には申し訳ないけど、彼のおかげでそう再確認することができた。
「今日はとても楽しかったよ。あの、もしよかったらまた今度…」
「ごめんなさい」
「えっ?」
「私、お付き合いしてる人がいるの。今日は私もとても楽しかった。でも…きっと他にもっと素敵な女性がいると思うよ」
呆気にとられたような彼の表情に申し訳なく思いつつも、私は軽く会釈をしてレストランを後にした。今は夕方、銃兎は今日早めに帰れそうだと話していたのでもしかしたら家にいるかもしれない。早く会いたいなぁ、なんて思いを馳せながら私はタクシーに乗り込んだ。