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【ヒプマイ】よふかしのうた : R18 : 短編集

第3章 ※心と身体の距離 帝統


「じゃあ、俺のこと好きになれば?」


同僚から発せられた言葉に、飲もうとしていた水が気管に入った。ゴホゴホッと涙目になってむせてしまう。


「おいおい大丈夫かよ…ほら」
「ありがと…っ、けほっ」


差し出されたおしぼりを受け取り、口元を拭く。なんとか落ち着いたので、次は料理をつまむことにした。


「…えっと、今なんて言った?」
「俺のこと好きになれば?って言った」
「訳分かんないんだけど…何それ…」
「俺、お前のこと好きだし」
「ん"っ、ゲホッ…ゴホッ…」


今度は唐揚げが喉に詰まる。水を飲み、それもなんとか胃まで通過させた。

この数分の間に3年くらい寿命が縮んでいる気がする。


「さっきから汚ねぇなお前…」
「いや!アンタのせいだっての!そんな軽々しく好きとか言わないでよビックリするから…」
「別に軽々しく言ってねぇよ、マジで言ってるし」
「……え、本気?」
「本気」


ずず…と味噌汁を啜りながら、彼は本気で告白しているらしい。全く緊張感のない好意を受け、私はどうしても受け入れ難かった。


「ま、今すぐ好きになれって言ってるわけじゃねぇし。がそんな風に悩んでるんなら、俺が勝手に付け入るだけだから」
「付け入るって…」
「気軽に考えろって。とりあえず、今週末出かけるか?」


そう言ってようやく私の方を見た彼は、余裕そうに話していたくせに耳が真っ赤だった。それがおかしくて笑うと、ますます赤くなる彼が不覚にも可愛いな、だなんて思ってしまって。今週末のお誘いに乗ることにした。





私が同僚に大して好意を抱くようになるのにそう時間はかからなかった。


デートのたびに私の好きなところを訪れてくれ、時には優しくエスコートしてくれたりもする。元々気が合うこともあり、2人で過ごす時間はとても楽しかった。


最初の頃は、帝統のことを思い出して胸が痛んだものだが、今ではほとんどない。帝統と同じ空間にいても、考えるのは同僚のことだ。セックスを求められても、何かと理由をつけて断っていた。


帝統が私の家を出ていくのはもう時間の問題だろう。それでも全然構わなかった。けど、いくら気持ちが冷めたと言えど、一度は好きになった相手。野宿をして苦しい思いをしてほしいわけではない。だから、私以外の女の人を見つけて早く出て行ってほしかった。
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