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【ヒプマイ】よふかしのうた : R18 : 短編集

第3章 ※心と身体の距離 帝統






そして、迎えた2年目の記念日。


記念日と言っていいのかすらも、もはや怪しいのだが。


仕事に行く準備をしていると、ぼりぼりと頭をかきながら、はよ〜…と気の抜けた挨拶をして帝統がリビングに入ってきた。


「…帝統」
「んお?どした?」
「………ううん、なんでもない」


もしかしたら覚えてくれてるかも…なんて、淡い期待は一瞬にして消え去った。すぐに視線を逸らして玄関へと向かう。


「……あ!そうだ!忘れてたわ!に言いてぇことあったんだった」
「えっ」


後ろからドタドタと慌ただしい足音をさせてこちらに向かってくる帝統に、久々に胸が跳ねる。もしかして、思い出してくれたのだろうか?


「今月ピンチなんだよ…ちょっとだけ金貸してくんね?ぜーったい来月までには返すからよ!!」
「………」


頼む!と両手を合わせて拝む帝統に、ドキドキと忙しく脈打っていた心臓が一瞬にして萎える。私は無言で財布から2万円ほど抜き取り、バンッと靴箱の上に置いた。そのまま帝統の顔も見ないで外に出る。後ろで帝統が何か言っていたような気もするが、無視して扉を閉めた。



電車の中で、ぼーっと外の景色を眺める。


好きなのかどうか分からない、という割には、帝統の些細な言動に一喜一憂している自分。まるで、まだ帝統のことを好きなんだと突きつけられているようで。


ふぅ、と小さく息を吐き、ドアにもたれようと背中を反転させる。すると私の後ろに立っていた人が、うおっ!と控えめに声を上げた。聞き覚えのある声に顔をあげると、そこには同僚の男がいた。たまにお昼を一緒に食べたりするくらいの仲で、そこそこ親しい。


「…あ、おはよ〜。なんだ居たんだったら声かけてくれたらよかったのに」
「はよ。後ろからだと分かんねーよ。女の人って大体みんな同じ後ろ姿じゃね?」
「そんなこともないでしょ…」


日常会話を交わし、目的の駅で2人一緒に降りる。会社に着くと、「昼飯一緒に食わねぇか?」と誘われ、それにOKサインを出してから業務に取りかかった。





そして昼休憩、いつも通っている会社近くの定食屋へと2人で繰り出した。慣れた手つきで同僚が私の分も頼んでくれ、席に戻ってからその礼を伝える。


「ありがと、お金これで足りるっけ?」
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