【ヒプマイ】よふかしのうた : R18 : 短編集
第2章 ※いつでもその覚悟はできてる 左馬刻
駅から家までの道のりで、一際ネオンが輝く通りがある。いわゆるホテル街だ。中を通る必要はないのだが、絶対にその前を通らなければいけない。目に毒な光に眩しさを覚えつつ、私はふと、その通りに目をやった。
「……あ…っ」
世界がスローモーションのように動く。
私が視界に捉えたのは、恋人であるはずの左馬刻と、可愛らしい女の子が腕を組んでホテルに入っていくところ。ここ最近、私が見ていない笑みさえ浮かべている。
「あ…ははっ…なんだ、そっか…私、ほんとに、飽きられて…っ」
ボロボロと溢れる涙と共に、自嘲的な笑みを浮かべる。心が抉られるように痛い。
その後、私はどんな風に家に着いたのかは覚えていない。気が付いたら玄関に蹲って泣いていた。時間の感覚がない。もう何時間も泣き続けているような気がする。
ひとしきり泣いて、時計に目をやるとまだ1時間くらいしか経っていなかった。
なんとかのろのろと立ち上がり、旅行用の大きなバッグを取り出す。そこに、自分の服やら小物やらを詰め込んでいった。
お揃いのものや思い出の写真、今まで貰ったお土産。どれも左馬刻さんを連想させるものである。それらをバッグの中に詰めるかどうか悩みに悩んだ結果、置いていくことにした。絶対に、見るたび左馬刻さんのことを思い出すから。
ゴミ袋にまとめて入れておいたら、左馬刻さん捨ててくれるかな…。
バッグ1つに意外に収まるもので、部屋を見渡してみても大した変化はない。一応、紙に"今までありがとうございました"と、ゴミ袋のものを処理して欲しいことを書き記した。
「…さようなら、左馬刻さん」
本当に、大好きでした。幸せになってください。
紙に書き残そうか悩んだ言葉だ。でも、飽きた女からの好意ほど、煩わしいものはないだろう。左馬刻さんに飽きられるだけでなく、嫌悪まで抱かれてしまうのは流石に耐えられない。
バッグを抱え、最後に部屋を見つめてから小さく息を吐き、玄関のドアノブに手を伸ばした。なのに、私が手を触れる前にドアノブが動く。
「えっ……」
「あ?…………何してんだ、お前」
ずっと会いたくて会いたくて、でも、今は最も会いたくなかった人が、そこにいた。