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【ヒプマイ】よふかしのうた : R18 : 短編集

第2章 ※いつでもその覚悟はできてる 左馬刻


「ただいま」
「…っ!お、おかえりなさい!」
「?おう」


不自然に声が大きくなってしまったことに左馬刻さんがわずかに眉を上げたが、特に気にすることもなく冷蔵庫を開けた。


麦茶を注いでいる左馬刻さんの側に行き、名前を呼びながら服の裾をツンツンと引っ張った。左馬刻さんは麦茶の入ったペットボトルを置き、私の頭を撫でる。


「どした?」
「あの……その、今日、し、シたい…です」


最後の方は声が小さくなってしまいだんだんと顔は下がっていったが、きっと聞こえているだろう。恥ずかしさで耳まで熱い。


しばらくの沈黙の後、左馬刻さんは私の頭から手を下ろした。


「………悪ぃ、気分じゃねぇ」


表情は見えなかったが、その声は酷く冷たいもののように感じた。ピシャリと、火照った体に冷水をかけられたような感覚に陥る。


「そ、そうですよね。ごめんなさい、仕事で忙しいのに!私、先に寝ますね。おやすみなさい」


最後まで左馬刻さんの顔を見ることはできないまま、私は逃げるようにして寝室に向かった。


パタン、と扉を閉めると、堰を切ったように涙がポロポロと溢れてくる。


私のことはもう飽きたから、相手にしてくれないんじゃないか。悪い考えばかりが湧いてくる。左馬刻さんのことを信じたいのに、信じきれない自分がいることに嫌気が差した。


もう…潮時なのかも知れない。


"別れる"


今まで考えたことのなかった3文字が、確実に私の中で存在感を大きくしていった。







左馬刻さんは、ますます遅く帰ってくる日が増えた。まともな会話をここ最近していない。私の仕事の忙しさにも拍車がかかり、時間によるすれ違いばかりだ。


いや、きっと心もすでにすれ違っているのだろう。左馬刻さんが、私じゃない人を選ぶと言うのなら私は消えるべきだ。頭ではそう分かっているのに、心の片隅ではまた期待している自分がいる。


浮気をされているわけじゃないのかもしれない、と。


そんな根拠、どこにもありやしないのに。





「……はぁ、仕事引き受けすぎちゃったな…」


余計なことを考える気力を仕事に注ぎ込みたくて、ほとんどの仕事を自分に回してもらっていたら終電ギリギリの時間になってしまった。いつもなら左馬刻さんに連絡するのだが、どうしてもそれをする気にはなれなかった。
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