【ヒプマイ】よふかしのうた : R18 : 短編集
第2章 ※いつでもその覚悟はできてる 左馬刻
いつもの彼は、ミントのようなタバコの香りか、ほろ苦いコーヒーの香り。甘いものを率先して食べることのない左馬刻さんが、あんな香りをさせることなんて想像できない。
だとしたら、考えられるのは…。
ガチャ
最悪の結論に至ろうとしたとき、左馬刻さんが寝室に入ってきた。慌てて目を閉じ、寝たフリをする。
左馬刻さんがベッドに手をつき、私のことを覗き込んでいるのが気配で分かった。狸寝入りがバレてるんじゃないかと内心変な汗がダラダラだったが、左馬刻さんは軽く私の髪の毛を払い頬にキスを落とすと、また部屋を出て行った。
……左馬刻さんを疑うのはやめよう。きっとたまたまどこかで匂いがついてしまっただけだ。
私はさっきまでの考えを脳の奥底に仕舞い込み、今度こそ眠りにつくために再び目を閉じた。
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「さん、これお願いできる?」
「はい、分かりました」
丁度仕事に区切りがついたとき、また新たな仕事を頼まれる。私の勤めている会社はブラック、とまではいかないものの、そこそこ忙しい。休憩時間を確保するのにも骨が折れる。
「あ、でも急ぎじゃないから。お昼はちゃんと取ってくれていいからね」
「はい」
時計を見やると、午後12時半。お言葉に甘えて、昼食をとることにした。
今日はお弁当を作る暇がなく、久しぶりの社員食堂だ。どれにしようかな、と食券売り場でメニューを眺めていると、不意に誰かに肩を叩かれる。振り向くと、同期であり友人でもある女性が立っていた。
「わ、久しぶり」
「久しぶり!が食堂にいるの珍しいね?」
「今日お弁当忘れちゃって…」
「そうなんだ!じゃあ一緒に食べない?」
その誘いに2つ返事で乗り、彼女のおすすめでC定食を注文した。彼女曰く、C定食は野菜がメインでヘルシーらしい。確かに出されたものを見てみると、緑色が目立つ。
空いている席を見つけ、向かい合って座った。