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月影のお茶会【魔法使いの約束】短編集

第1章 ショコラに魔法を【ミスラ】



「え、え、えぇ!?」
狼狽える賢者を余所に、気持ちよさそうにまるで大きな猫のように頭を預けている。
ミスラの艶やかで柔らかい髪がスカート越しに腿をくすぐる。
完全に無防備、こんな状態のミスラを絶対にオーエンには見せられないだろう。

「賢者様、何をしたんです?」
ミスラが上を向き直して聞いた。
下から視線を感じるものの、賢者は恥ずかしさでミスラの顔を見ることが出来ない。
「私にもわかりません…!」
そのまま首を大きく振った。
「何故か今なら気持ちよく眠れそうです」
ミスラの表情が柔らかくなった気がした。
「あの、そ、それは良かったです」
そう言ってからある事に気付く。

「あ…おまじないが効いたのかもしれませんね」
「…おまじない?」
「はい。ミスラが少しでも眠れますようにと願いながら作っていたんです。神様が叶えてくれたのかもしれませんね」
とても嬉しそうにそう言った賢者の顔を下からジッと眺めた。

「神様なんて信じていません。これはきっと貴女の魔法でしょう」
真面目にそう言ったミスラがなんだか可笑しくて可愛くて、やっと下を向いて賢者が笑った。
「私は魔法使いではないですよ?ミスラ」
「…そうですね」

もう殆ど目を開けていられず、ミスラは微睡みの中に意識を手放そうとしていた。
「…これ、また作ってください」
「はい。ミスラが望むならいつでも」

「……………」
完全に瞼は閉じられた。
程なくして囁かに寝息が賢者の耳に届く。

「おやすみなさい、ミスラ」
ミスラの規則正しい寝息を聞きながらそう呟くと賢者もまた眠気に誘われ、そっと意識を手放した。

辺りにはまだブランデーと甘いチョコレートの香りが漂っていた。




✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


「そう言えば、賢者様は俺のことが好きなんですか」
翌朝目覚めた賢者に浴びせた第一声。

「チョコレートを好きな人に送るとか何とかって昨日言ってましたよね」

「………………………!!!!」

朝早く、賢者の声にならない声が魔法舎に響いたのだった。



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