第1章 ショコラに魔法を【ミスラ】
「…これ」
「は、はい!」
緊張の為か若干裏返る声。
「食べていいですか?」
ミスラは先程の箱を見つめている。
「勿論です。お口に合うといいんですが…」
「賢者様が作ったんですか?」
リボンを解く手は止めずに聞く。
「はい。ネロに教えて貰いながら…ですが」
恥ずかしげに俯く賢者を少し眺め、またラッピングに手を掛けた。
中から出てきたのはひと口サイズのチョコレートが6つ。
どれも違う形をしている。艶やかで素人が作ったにしては上出来な造形だった。
ミスラは無造作にその内の1つを摘み上げ口に放り込む。
それを静かに見守りながらコクッと息を飲んだ。
辺りにチョコレートの甘い香りが広がった。
その直後にまた違う香りも広がる。
「…ブランデーですか?」
「そんなんです。少し入れてみました。アルコールが入ると眠りやすくなるんじゃないかと思って」
「甘いですね」
「甘すぎましたか?」
心配そうにミスラを見上げる。
「嫌いではないです」
好きだと言ったわけではないのに賢者は嬉しそうに、満足そうに微笑んだ。
ミスラは更に2つ3つとチョコレートを食べ進める。
程なくして小さなチョコレートたちは全てミスラの口へ消えていった。
口内が甘ったるく、それでいて芳醇なブランデーの香りが鼻を抜けていく。
心地良い、とミスラは感じた。
体質的にお酒には強く、酔うなんてことは殆どない。
最近ではシャイロックにお酒を進められて飲む程度だが、アルコール度数の高いものであってもいつもと変わらず平然としているほど。
それなのに何故か今、ミスラは心地よくあわよくば眠れるのではないかと感じていた。
「賢者様」
「はい?」
「ブランデー以外にも何か入れましたか?」
「いいえ、特に変わったものは入れてませんが…どうしたんですか?」
ミスラの様子が少し変だと気付く。
いつも眠そうにしているが、それとはまた違ったとろんとした表情は普段よりずっと色香を漂わせていた。
「ミスラ、大丈夫ですか?」
ミスラの肩に手を置いて軽く揺らす。
その揺れに身を任せるようにミスラの体が大きく揺れたかと思うとそのまま賢者の太腿へとダイブした。
いわゆる膝枕だ。