第9章 想いとの決別
「いつから気付いてた?」
「…イズナが死んですぐ。運良くあの場から逃れられた者に聞いた。それに…、あの兄弟のどちらかだって予想は付いてた。それ以外の奴がイズナに敵う筈がないもの」
主語を入れずともその言葉が何を意味しているかすぐに分かった。
あの時、マダラは決して自分にイズナの仇の名前を教えてはくれなかった。
イズナが自分に言わぬ様に望んだから。
理由を聞かずとも、どうしてかなんて考えなくても分かる。
イズナは優しい人だった。
自分に復讐させない様にマダラに口止めして死んだ。
辛かった。
復讐する事を許してはくれないだなんて、あまりにも優しくて残酷だった。
心が壊れそうになる度に何度も何度も大声を立てて泣いた。
そして、その繰り返しがいつしか虚無を生み「憎しみ」を押し殺し、自分から感情を奪っていった。
そのせいか、あの頃は千手に捕らわれて扉間が近くに居ようとも自分を抱こうとも何とも思わなかった。
何も感じなかった。
今思えばそれはある意味良かったのかもしれない。
そうでなければ、あんな風に共に過ごす事など出来なかった。
「…右手のそれは封印術か?」
「チャクラを一時的に封印する術式らしい。左手はどうにか解けたけど右手はまだ解けてない」
「戻ったらヒカクにでも見て貰え。あいつは封印術にも長けているからな。千手の印だろうと恐らく問題はないだろう」
マダラは何も知らない。
自分が柱間の願いや思いに絆されたなんて知ったらそれこそ大問題だ。
ましてや扉間に惹かれ始めている事なんて知られる訳にはいかなかった。
だから、ああするしかなかった。
自分の事を忘れてしまえば知り合う以前の様に戦う事が出来る。
扉間程の実力者ならばこちらも本気で戦わなければ殺される。
その本気がマダラを騙し全てを騙す。
(…そう簡単に殺される気はないけどね)
次に会うのは戦場。
うちはの屋敷へと向かう途中もこの胸にある想いをどうしたものかと思案するも、良い案は思い付かなかった。