第1章 序章
それからというもの、おれは愚かにもさんの事を視界の端っこで追うようになってしまった
彼女は男女ともによく話す
おれに話しかけに来る暇なんてないくらい、周囲は絶えず彼女の隣を奪い合い、時には別のグループですら混ざり合い談笑している
彼女がいれば”平和”とかいう夢物語も、よもや実現するのではないかと、バカな事を考える
ここ何日か見ていて思ったことだけど
あの日、体育館裏で見たような、おれと話した時のような顔を
彼女は誰一人として向けていない
それが凄く嬉しくて
ちゃんと、あの時の言葉は本音なんだろうなって思って
仲良く…なりたいと、思って――……
意を決して、話し掛けた
「…ねえ」
周囲の楽しい空気が一瞬で凍り付く
続く言葉が、頭から消えた
顔が青くなっていくのが分かる
頭頂部から足の先へ血の気が引いていく途中
透き通る声が、それを塞き止めてくれる
『孤爪くん!』
ぱあと、一段と明るさを増す彼女の表情に
凍った空気が霧散した
「…ごめん、邪魔だったら」
そう俯き零すと
取れてしまうんじゃないかと心配になるぐらい首を振る
『全然!!むしろこっちがごめん!その…私から、仲良くなりたいとか、恥ずかしい事言っといて……!』
「そんなこと言ったの?」
『えへへ…』
笑って誤魔化す彼女に、周囲はまたあたたかい冗談で包まれる