第2章 ローズ・マダー
僕が、こんな決断をするのは…
こんな大きな決断をするのは、初めてのことだと思う
でも、落ち着いて聞いて欲しい
決して、みんなを捨てるわけじゃない
ただ、僕自身が…僕を見失うその前に
僕はここから旅立ちたいと思う
次の人生を歩みたいと思う
そのために、みんなを巻き込むわけには行かない
だから、僕一人で旅立つことを
どうか、許して欲しい
乾いた指先のささくれが気になる。
でも、今はこれを取ってる時じゃない。
外はじっとりとした暑さで。
湿度が高くて汗ばむほどなのに。
僕は震えてる。
このしゃれた居酒屋の狭い個室の冷房は…
心地いい温度なのに。
僕の指先は冷たくて。
椅子に座ってるのに、足も震えてる。
「ちょ…」
シンとしていた室内に、左隣に座るニノの声が聞こえた。
「ちょっと…今日、俺の誕生祝いの席なんだけど…?」
声がちょっと震えてた。
「うん…わかってる。でも、僕…」
「わあった!わあったから……」
それきり、口を閉ざしてしまった。
申し訳無さに、涙が滲みそうになる。
でも、言わなきゃ…伝えなきゃいけない。
「ごめん…もう、限界なんだ…」
そう、口にした瞬間
向かいに座っている男が僕の腕を掴んだ。