第6章 シュガー・ビート
コトンと紙コップが俺の前に置かれた。
5×20ツアーの最終ミーティングの終わり。
レッスン場には、もうメンバーは潤しか残ってない。
雅紀やニノはとっくのとおに、帰っている。
紙コップの中には温かいコーヒー。
そして、それを持ってきてくれたのは我らが御大の大野智だった。
「…智くん…珍しいね?」
「そお?」
「いつも終わったらとっとと帰るじゃん。脇目もふらないで」
「…やることなきゃ、帰るよ?」
「へえ…じゃあ、今日はやることあるんだ?」
「へへへ…」
ニタリ、御大は笑った。
智くんのマネは、レッスン場の出口で待ってる。
いつもなら速攻で帰る智くんが、俺に話しかけてるもんだから、天変地異でも見てるような顔をしてる。
そんなマネに智くんは一瞥をくれてやると、しっしと手で追い払った。
マネは恐ろしいものを見た顔をして、レッスン場を出ていった。
「御大…もしかして、アレですか…?」
「そう…今日こそは、ここでって思ってんだけど…なかなか隙がなくってさ…結局できなかったよ」
「ご愁傷様です」
「くう…」
滅多にこんなこと、仕事場じゃ話さないんだけど…
活動休止を控えて、今年の年末はスケジュールが詰まりまくりで、俺達には暇がなかったから。
だから仕方のないことだった。