第9章 大方は真しくあひしらひて、偏に信ぜず、また疑い嘲るべからず
「お嬢さん、俺の目を見て」
公任は少女の顎を持ち上げ、その眼を覗く。少女の目は依然、恐怖に支配され、雫が溢れた。
しかし、少女は公任の青い目に魅せられて、その強張った表情が和らぐ。
公任はそっと手を離すと、少女に優しく話しかける。
「瑞雲と子供たちは何処にいる?」
少女はゆっくりと、しかしはっきり答える。
「この草庵の北東に、人の手で削られた岩があります。その近くの小道を道なりに進むと、小屋があります。そこに皆おります」
「わかった。ありがとう」
「……あのっ」
立ち上がろうとした公任の着物の裾を、少女は掴んだ。
「どうかっ……どうか息子を助けてください。お願いします、お願いします……」
震える小さな手を、公任はそっと両手で包み込んだ。
「必ず」