第8章 姉の結婚【煉獄杏寿郎】
こんな感情許されないだろう。
例え血が繋がっていなくとも「家族」なんだ。
物心ついた時から「姉」と慕い、「弟」と可愛がられ過ごしてきた。
それを…、まさか。
よもや「姉」に恋心を抱く日が来るとは。
だが、気付いてしまったこの気持ちは日に日に募る一方で。
歯止めをかける事が出来ない。
姉上、…俺はあなたの「弟」では居られない。
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『おかえりなさい、杏寿郎さん。今日もご無事で何よりでした。』
夜警を終え、家に帰れば朝食の用意をしていた姉、紗英が笑顔で出迎えてくれた。
「ただいま戻りました、姉上!」
『朝食の準備が出来ていますよ。召し上がりますか?』
「はい。頂きます!」
『今日は杏寿郎さんの好きな、さつま芋の味噌汁ですよ。』
穏やかに微笑みながら碗に味噌汁を注いでゆく。
いつもの朝…。変わらない風景。
母上が亡くなり、次いで父上も柱を辞め…荒れてしまわれた。
火が消え、色を失くしてしまいそうになる俺と千寿郎を励まし続け、まだ小さな千寿郎をおぶりながら、この家で『母』や『妻』に代わるよう努め、一切を担ってこられた姉上。
その苦労は…如何程であったかと思う。
俺たちは血の繋がった『姉弟(きょうだい)』ではない。
俺が産まれる2年前。…鬼に親を殺され、乳飲み子の姉上だけが生き残っていたところを父上が連れて帰り…その後養女として迎えたという。
その事実は早い段階で俺にも千寿郎にも教えられた。
血の繋がりがなくとも「家族」には変わりない。元々家族なんてものは血の繋がらない者同士が作り上げていくものなのだ。紗英が姉で、俺が弟なのは生涯変わる事はない。
「うん!うまい!!美味しいです、姉上!」
『そう?良かった。沢山作りましたからね、おかわりしても大丈夫ですよ。』
顔を綻ばせ嬉しそうに笑う。だが…薄らと目を赤らめその目元にはクマが出来ている。
こんな顔の姉上を見るのは、多分初めてだ。
僅かに胸を過ぎる嫌な予感。
「…あまり眠れませんでしたか?」
聞きたい。けれど、聞いてはいけない。本能が呼び止めるのもいとわず、俺の口は姉上に問いかけていた。