第7章 卒業おめでとう【不死川実弥】
当たり前のように毎日同じ空間にいた3年間。
友人たちと笑ったり、時にはケンカもして泣いたり。
それでもやっぱり笑いあって過ごした日々も今日で終わる。
最後のチャイムに耳を傾け、教室の窓から少し膨らんだ桜の蕾を見る。この桜が咲く頃には皆、別々の場所に居るんだと思うと少し切なくなった。
「写真撮ろうよ!紗英!」
胸に花の飾りをつけた友達に声をかけられ、皆の輪の中に入っていった。
今日は、高校最後の日。卒業式だ。
「お前らァ、適当に体育館に行けよ!」
不死川先生の声が教室に響き渡る。その声に身体が無意識に反応して、少し頬が赤くなる気がした。
この3年間、先生のことがずっと好きだった。
不死川先生は怖いけれど、憧れている女子は意外と多くて玉砕覚悟で告白した子の噂が時々聞こえてくる程。
何人かでバレンタインにチョコレートを渡しに行った時、私にはチョコを渡す勇気がなくて友人に紛れているだけだったのに、「お前からはねぇのか?」なんて揶揄って聞いてくるから、胸がドキドキして苦しくてたまらなかった。
嫌いだった数学も、先生に私の事覚えてほしくて頑張って勉強していたら数学は学年一位をキープできる程になったし、理数系の大学を狙えるくらい成績が上がった。
それでも、先生と話す勇気は3年間遂に持てなかったな。
時々廊下ですれ違えば、挨拶するくらいだし。…テストを返却される時「今回もよく頑張ったな」と声をかけてもらっても、俯きながら『ありがとうございます』と早口で答えることしか出来なくて。
先生の記憶に残りたいと思うのに、上手く話すことも出来なくて…その他大勢の生徒に埋もれたまま…卒業の日を迎えてしまった。