第4章 君が笑顔の日【不死川実弥】
ぽこん。…と、小さく、けれど確かに身体の奥から呼びかけられた。
ぽこ、ぽこん…と何度も動く。
『…動いた…。』
「は……?」
『動きました、実弥様…お腹…』
その時、一際大きくぽこんと跳ねたのが実弥様にも手を通して伝わったようで目を大きくし食い入るようにお腹を見つめる。
「…生きてる…、…ははっ…そうかぁ…お前も、玄弥と遊びてぇのか…?」
すると、問いかけに応えるように何度もお腹を蹴る。
ありし日の…お母様を思い出されたのだろうか。弟、妹がお腹にいる時こうしてお腹に手をやり、その命からの投げかけに言葉を交わされただろうか。
お腹を手で摩り…物言えぬ我が子と会話するように胎動をその手で受け止めていた。
涙を流しながら…ーー。
『…よく動きますね。…きっと、実弥様に似たやんちゃな男の子かも知れませんよ?』
「…お前に似た優しい女の子だと良いがなァ。…絶対嫁にやらねえ。」
鼻をすすり着物の袖で残る涙を拭ってみせた。
『気が早いっ!…ふふっ、!!』
可笑しくて笑い続けていると、流石にちょっと実弥様がムッとしているのを感じた。
『…きっと、全て上手くいく日が来ます。…この子が色んな縁を繋いでくれますよ。』
今はまだ…交わらない流れも、いつしか必ず一本の流れになり、滞るわだかまりも全て押し流してくれると、確信にも似た予感がする。
「…そうだなァ」
ふっ…と微笑み私の頬に手を添える。軽く、啄むように口付けられその腕に閉じ込められた。暖かい、3つの鼓動が重なり合う。
春というにはまだ早い、梅の花が綻びつつある昼下がり。こんな穏やかな時がこの先も、ずっと続いていきますように。