第4章 君が笑顔の日【不死川実弥】
「ご懐妊ですねえ。おめでとうございます。」
年の頃70代くらいだろうか、穏やかで上品そうな産婆さんがゆっくりとした口調で告げる。
「産み月は…そうね、ひぃふう…5月、いや6月かしらねえ?」
『…6月、ですか』
「悪阻はどうかしら?ご飯が食べられないとか、ない?」
『いえ、今朝からちょっと具合が良くないと思い始めたくらいで…食事は今のところとれています。』
「そう。これから食べられない事もあるかも知れないけれど、その時はまた診ましょうね。不安なことがあればいつでも聞いて頂戴。」
優しく微笑みかけてくれる産婆さん。隣で一緒に聞いて下さっていた胡蝶様も、良かったですね。と優しく声をかけて下さる。
子どもが、いるんだ。此処に。実弥様の子が…ーー。
『……良かった…、良かった…やっと…実弥様の子が…っ』
まだ平らなお腹を触っていると、じわじわと実感が湧いてきて涙が溢れ出てくる。
「…不死川さんがお父さん…なんだか想像つきませんねえ。」
胡蝶様はクスクスと笑っている。
「これからですよ。大仕事が待ってますからね。大事に育てていきましょう。」
産婆さんの小さな手が私の手をしっかりと包んでくれた。
『はい、…はいっ。ありがとうございます…。』
産婆さんと胡蝶様に背中をさすってもらう間も、全く涙は止まらず私は嬉しくて泣き続けた。
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「診察終わったかァ?」
産婆さんが帰られた頃、実弥様が診察室へとやってきた。
「はい。終わりましたよ。もうお帰り頂いて大丈夫です。」
「そうかァ、世話になったな。胡蝶。」
「いいえ。では紗英さん、お大事になさって下さい。何かありましたらいつでも来てくださいね。」
『はい。お世話になりました』
胡蝶様に礼を述べ、私達は蝶屋敷を後にした。